第41話 3人で露天温泉を満喫する
宿の奥に案内されたあと、一行は夕食を終え、部屋で一息ついていた。
「……で、温泉もあるって言ってたよね? なら、入りたいわ」
セリアがぼそっと言ったのは、暖かいお茶を口にした直後だった。銀の髪を揺らして座布団に座る彼女の目は、どこか期待を込めていた。
「温泉だなんて……ほんとに、ここなんでもあるのね。あんな外れの場所なのに」
リーリアンが感心したように言うと、ルゥが湯呑を傾けてから呟く。
「高いわけだ。湯も料理も一流だぞ、ここ」
「じゃあ、行ってみようか。温泉!」
セリアが立ち上がり、意気揚々と脱衣所へ向かう。リーリアンも続くように席を立った。
「ちょ、ちょっと待ってよ、二人とも……」
カールが立ち上がろうとした瞬間、セリアがふと振り返った。
「ルゥとカールも来る?」
「ボクはお留守番する」
ルゥはそういうと部屋の隅で丸くなっていた。一方カールは。
「……えっ?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
「どうせ貸し切りなんだし、お客は私たちしかいないのよ? 別に構わないわよね?」
セリアが何気なく言うその一言に、カールは言葉を失う。
「ま、まて。それって……男女混浴ってこと?!」
「そうだよ? だって、貸し切りってそういうことでしょ?」
リーリアンがくすくすと笑う。
「だいたい、旅なんだから、ちょっとくらい一緒に入ったって減るもんじゃないよ?」
そう言って、ツインテールのピンク髪をふわりと揺らす彼女は、すでにタオルを手にしていた。
そして――
温泉は、宿の裏手にある岩風呂だった。高い岩壁に囲まれ、月明かりが湯面に淡く反射している。空には星がまたたき、山の静けさが包み込むように降りてくる。
「すごい……まるで秘湯って感じね」
セリアが湯に足をつけて、小さく感嘆の息をこぼす。銀髪をアップにまとめ、肩まで湯に沈めた彼女の肌は、湯気と月光に照らされて神秘的に見えた。
「ふぅ……気持ちいい……」
「うわ、ほんとにいいお湯だね……。これは高いわけだ」
リーリアンも湯の中で伸びをしながら、心底気持ちよさそうにしていた。
一方――
「うう……ど、どこを見ればいいんだ……」
目線のやり場に困ったカールは、ひたすら空を見上げていた。湯気の向こう、ちらりと見える肌や、濡れた髪の美しさに、頭の中がぐるぐると回っていた。
「……カール、そんなに緊張しなくてもいいのに」
セリアがクスリと笑って近づいてくる。
「べ、別に緊張してるわけじゃ……!」
「うそばっかり。顔、真っ赤よ?」
リーリアンがにやにやと近寄り、わざと湯をぱしゃっと跳ねさせる。
「もう、からかわないでくれよ……」
「だって、おもしろいんだもん。いつもは剣聖ぶってクールなのに、こういうときだけ可愛いんだから」
カールは苦笑いを浮かべるしかなかった。剣を振るうときの冷静さはどこへやら、いまや完全に守勢である。
「でも、こうして三人で温泉に入るなんて、なんだか不思議な感じがするわ」
セリアがぽつりと呟いた。
「うん……なんか、家族みたい。いや、恋人って言うべきか?」
「どっちも、ね」
リーリアンが照れたように笑い、続けた。
「でもさ……わたし、思ってたよりずっと楽しいよ。カールとセリアと一緒に旅してるの」
「……俺も、だよ」
カールは素直に答えた。そう言えることが、なんだか嬉しかった。
そして、ふと、三人の間に流れる沈黙。
ただ湯の音と虫の声?だけが、静かに耳に届いていた。魔女の宿だからありなのか……
「この時間、ずっと続けばいいのにね」
セリアがぽつりと呟いたその言葉は、湯けむりの中で小さく消えていった。
だがその想いは、確かにカールの胸の奥に、あたたかな灯となって残った――。
 




