表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/268

第37話 魔族の辺境警備隊ヴェルトから見たカール=キリト一行

俺の名はヴェルト。魔族の辺境警備隊に所属する一介の歩哨兵だ。


 いつものように山道の巡回を終え、転移門の周囲を見回っていたときだった。


 空気が、ピンと張り詰めた。


 風が止まり、空が鳴った。魔力が、まるで生き物のようにうねり始めたのだ。


 「何か来るぞ!」


 俺は即座に叫んだ。共に警備していた二人の兵も同様に気配を察したようで、槍を構えて木立の影に身を潜めた。


 転移門へ向かって歩いてくる、四つの気配がある。


 その中心にあるのは、人間――いや、それだけではない。


 圧倒的な魔力の流れを感じた。どこかで、似た気配を……そう、ウロボロス様の神殿で感じたことがある。


 足音が近づいてきた。


 やがて、姿を現したのは――


 「銀髪の剣士……?」


 そして、その傍らには冷たい瞳の銀髪の女魔術師、さらに、明らかに高位の魔族の血を引く少女。


 「あれは……」


 俺の隣にいた年長の兵が、目を見開いた。


 「リーリアン=フリーソウだ……! 魔王戦線の血族……フリーソウ侯爵の令嬢だ!」


 何だって? あの誇り高き侯爵家の令嬢が、なぜ人間の一行に?


 動揺しながらも、俺は三人の前に姿を現した。


 「止まれ! ここは魔族の領域だ。転移門の使用は厳しく制限されている!」


 剣士が前に出てきた。よく鍛えられた体躯、静かな目。こちらをまっすぐに見据えている。


 「カール=キリト。氷湖を目指している。通してもらう」


 落ち着いた声だった。だが、俺は構わず槍を向けた。


 「許可がない限り、誰であれ通すわけには――」


 そのとき、剣士の右手の甲が淡く光を放った。


 金の紋章――蛇が己の尾を咥え、円環を成す――


 「……ウ、ウロボロスの契約印!?」


 俺は言葉を失った。


 ウロボロス様とは、我ら魔族にとっても伝説に等しい存在だ。千年前の戦争の記録には、神と契約した存在として名が刻まれている。だがそれは、遠い昔の話……。


 なぜ、人間がその印を持っている?


 「本物……なのか……?」


 印から放たれる魔力は、まさしく神聖で、厳かで、そして“真理の力”を帯びていた。


 「そ、そんな……。ウロボロス様が……人間を認めたっていうのか……?」


 隣の兵士が震える声でつぶやいた。俺もまた、槍を持つ手がわずかに震えた。


 さらに、恐ろしいことにその人間の傍らにいる少女――リーリアンが、こちらを真っ直ぐに見て口を開いた。


 「通しなさい。これは“導きの旅”。止める権利は、あなたたちにはないわ」


 その声には、侯爵家の血族ならではの威厳があった。命令ではなく、宣言。立場の違いを押しつけるでもなく、それでも誰もが従うしかない、圧のある言葉。


 ……俺たちは、ただの兵士だ。貴族に逆らえるはずもない。


 「……通れ。ただし、責任は取れないぞ」


 それだけ言って、俺は槍を下ろした。


 剣士――カールは、軽く頷いた。


 やがて、彼らは転移門の前に立った。門はすでに活性化していた。魔法陣が脈動し、眩い白銀の光が地面にまで反射している。


 「行くぞ、セリア、リーリアン、ルゥ」


 「ええ、カール」


 「……次は、きっと……氷の試練ね」


 彼らの姿が光に包まれ、消える直前。


 銀髪の剣士が、ふとこちらを振り返った。


 その目は、どこまでも静かで――そして、揺るがない光を宿していた。


 ああ、思い出した。


 あの目を、俺は知っている。


 千年前の叙事詩で語られた、選ばれし“剣聖”たち。


 真理に挑む者の眼差しだった。


 ウロボロス様が選ぶにふさわしい男――。


 カール=キリト。


 この名は、やがて我ら魔族の間でも、語り継がれるだろう。


 そう確信しながら、俺は沈黙の中、白く輝く門の先を見つめ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ