第16話 復讐の幕開け
◆舞踏会にて――復讐の幕開け◆
その夜、王都ルメリアの中心、王宮主催による盛大な舞踏会が開催された。百を超える貴族たちが煌びやかなドレスや軍装に身を包み、音楽と香の中で優雅に時を過ごしていた。
だが、すべては"その男"の登場によって一変する。
カール=キリト。
漆黒の軍装に身を包み、腰には銀の聖剣《黎明》。その姿は、もはやかつての無力な三男坊ではなく、伝説をまとった“真の剣聖”そのものであった。
彼が会場の扉を開き、一歩踏み入れた瞬間、空気が変わった。貴族たちは息を呑み、令嬢たちは言葉を失い、騎士団長すら背筋を正す。
カールは何者かに導かれるわけでもなく、自ら足を進め、会場の中央へと立った。そして、静寂の中、低く、よく通る声で告げる。
「本日は、一つの謝罪と、清算の場を設けさせていただきました。」
ざわ……と、会場がさざ波のようにざわつく。
「リリス・リース嬢。あなたには、かつて私との婚約を一方的に破棄し、名誉を地に落とした件について、王都の前で説明と謝罪を願います。」
その名が告げられた瞬間、音楽が止まり、視線が一点に集中した。
白銀のドレスに身を包んだリリス・リース。彼女は凍りついたように固まり、手にしていたグラスを取り落としかける。
「な、何を言って――っ! あれは、あなたが無能だったからで……!」
しかしその言葉は、最後まで言い終わることはなかった。
カールが静かに手を掲げた。その瞬間、天井から降り注ぐ魔法陣が輝き出す。次の瞬間、舞踏会場中央の魔法投影装置が発動され、映像が空中に浮かび上がる。
《記録映像:婚約破棄の場面》
王都学園・卒業式の日。
貴族たちの前でリリスが、ダンガー子爵と並んで嘲笑する姿。侮辱の言葉、カールへの軽蔑、そして、半分平民が身の程知らずと笑ったその瞬間が、鮮明に映し出された。
場内に、冷たい沈黙が満ちた。
リリスの顔は蒼白になり、ダンガー子爵は歯を噛み締めて目を逸らす。
「このような形で公にするのは、私の本意ではありませんでした。」
カールの声が再び響く。
「ですが、貴族の名を汚され、真実が歪められたままではならぬと考え、ここに公開させていただきました。私の名誉を貶めたことに対し、王都の貴族社会がどう判断するのか、それは各位にお任せします。」
誰も言葉を発しなかった。
この場にいた全ての者が、カールの“力”だけでなく、“誇り”を見た。
そして、長い沈黙の後、王都で名のある老伯爵が口を開いた。
「キリト卿、あなたの誠実と剣に敬意を。……これは、真の騎士の姿だ。」
やがて、他の貴族たちもそれに続き、拍手が広がる。
貴族社会の“常識”が、たった一夜で書き換えられた瞬間だった。
その夜——王都ルメリアの空に、新たな伝説が刻まれたのである。




