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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第34話 獣人村のバオバオからみたカール一行

『銀の剣士と影を裂く者たち――バオバオの見たもの』

 バオバオは、木の上にいた。


 夜が明ける少し前、霧が濃く漂う「影の谷」の近く。村の大人たちには「決して近づいてはならぬ」と言われていた場所。だけど、あの人たちが谷に向かうのを見たとき、バオバオの小さな胸はドクンと鳴った。


 ――見たい。あの銀の剣士が、どうやって戦うのか。


 それが怖くても、バオバオの足は木に登っていた。耳を伏せ、しっぽをしぼめ、息をひそめて。それでも目だけは、強く、見開いていた。



 そのときだった。


 空気が変わった。


 ぴりっとした冷気。まるで冬が一瞬で来たような気配。氷の魔女、セリア=ルゼリア=ノルドの魔力が、大気ごと凍らせていくのが感じ取れた。


 すぐに雷のような魔力のうねり。ピンクの髪の魔族、リーリアン=フリーソウ侯爵令嬢の放つ、黒雷が木々を照らした。


 そして。


 現れたのは、黒い、黒い影だった。


 四足の獣。大きな狼のようなそれは、煙のように揺らぎ、赤い目をぎらつかせていた。


 バオバオは、息を呑んだ。


 それは、家族を奪った“影”だった。


 夢に出る。夜中に泣く。大人には言えないほど怖い思い出。その元凶が、今、あの人たちの前に姿を現したのだ。



 「来るぞ!」


 銀の剣が、きらりと光る。


 バオバオの胸が震えた。


 ――やっぱり、かっこいい……。


 カール=キリト。銀髪の剣士。村に来たときからただ者ではないと思っていた。でも、いま目の前で本物の怪物と戦おうとしているその姿は、まるで物語の中の勇者みたいだった。

 


 戦いが、始まった。


 氷が空を凍らせ、雷が地を穿ち、銀の剣が影とぶつかり合う。


 「やっつけて……!」


 バオバオは小さく祈った。


 でも、影の獣は強かった。


 魔法をすり抜け、黒煙のように形を変え、するりと背後に回りこむ。


 そして、銀の剣士に飛びかかる。


 バオバオは、思わず目を覆った。


 でも、セリアが叫んだ。


 「カールッ!」


 その声に呼応するように、氷が割り込んで影を押し返す。剣士の意識が戻り、契約紋の光が収まる。



 ――あのひとの中には、“何か”がいるの……?


 バオバオは気づいた。銀の剣士は、自分の力と戦っていた。影とだけじゃない。もっと深い、なにかと。


 それでも、彼は剣を握った。


 「おれたちは、囲む! セリア、右から! リーリアン、上空へ!」


 仲間たちが動く。氷、雷、牙、そして銀の剣がひとつになる。



 ――すごい……。


 バオバオの目に、涙が浮かんだ。


 家族を守れなかった自分。泣いてばかりだった毎日。でも、彼らは違う。


 自分の恐怖を、誰かのために、剣に変えている。

 


 最後の一撃。カールの剣が、影を裂いた。


 魔物の声が、子どものように響く。


 そして、影が霧のように消えた。


 世界が、静かになった。



 バオバオは、しばらくその場を動けなかった。


 胸の奥が、熱くて、切なくて、どうしようもなかった。


 木から下りて、村へ戻る道すがら、涙がぽろぽろ落ちた。


 ――ありがとう。ありがとう、銀の剣士さん……!

 


 数時間後、村では大きな火が焚かれていた。


 影の谷の魔物が倒されたという報が広がり、みんなが驚き、そして喜び、感謝した。


 カールたちは村に戻り、長老や村人たちから歓待を受けていた。


 「本当に助かりました……」


 長老が何度も頭を下げる。


 セリアは優しく笑い、リーリアンは少し照れくさそうに「当然よ」と言っていた。


 ルゥは子どもたちに囲まれて、「カールの剣が、びゅんって光ってな、ズバッと切ったんだぞ!」と何度も武勇伝を披露していた。



 バオバオは、少し離れた場所で見ていた。


 あの銀の剣士に、声をかけたい。でも、勇気が出ない。


 


 ――そのときだった。


 「君が……あのとき木の上にいた子か?」


 振り返ると、そこにカールがいた。


 優しい笑顔だった。怖くない。むしろ、太陽みたいに温かい。


 バオバオは、震える声で言った。


 「わたし……あの影、ずっと……怖くて……家族も……」


 カールはそっと頭を撫でてくれた。


 「大丈夫。もう、いない」


 その言葉だけで、涙があふれた。


 


 


 その夜、カールたちは村に一泊した。


 囲炉裏の火を囲んで、村の者たちと食事をとり、子どもたちに魔法や剣の話をしてくれた。


 セリアが氷の結晶で小さな花を作り、リーリアンが光の花火を上げてみせ、ルゥがしっぽを使って笑わせる。


 夢のような時間だった。


 バオバオは、そっと空を見上げた。


 そこには、満天の星と、旅立ちを待つような静かな風が吹いていた。




 翌朝。


 銀の剣士たちは村を出発した。


 青空の下、北の果て、“白銀の地”を目指して。


 バオバオは、村の丘の上から見送った。


 「絶対……また来てね!」


 声を張った。風に消えないように。


 すると、銀の剣士が振り返り、手を振ってくれた。



 ――ありがとう。あなたに出会えて、よかった。


 

 バオバオの胸には、ずっと消えない光が残っていた。


 銀の剣士たちの姿と、その戦いが、彼女にとっての“希望”になった。


 


 そして彼女もまた、いつか――誰かを守れるような存在になりたいと、そう思ったのだった。

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