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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第33話 カールキリト 獣人の村に討伐報告に行く

『白銀の森、影を裂いて』

―村に戻り、そして再び旅路へ―


 影の獣が消え、黒き森に朝の光が差し始めた頃、カール=キリトたちは再び歩き出していた。


 森の中を、ひんやりとした空気が流れる。が、それはもう瘴気の冷たさではない。セリア=ルゼリア=ノルドが手を伸ばすと、朝露が指先に触れた。


「……戻ろう、村へ」


 カールの言葉に、ルゥがうんうんと頷いた。


「そうだな! 村の奴ら、きっと待ってるぞ!」


 ピンク色の髪を揺らして、リーリアン=フリーソウが肩で息をつく。


「ったく、あの化け物……タフだったわね。でも、カールが無事でほんとによかった!」


 カールは微笑んで、「みんなも、な」と答えた。


 やがて木々が開け、見慣れた木柵と石造りの門が見えてくる。獣人たちの村――ラナス。小さな村だが、自然と共に生きる力強さを感じさせる場所。


「おーい! カールたちが戻ってきたぞ!」


 見張り台から声が上がり、あっという間に村中が沸き立った。


 「帰ってきた!」「討伐は!?」「生きてる……!」


 その声に、カールは静かに頷く。


「影の獣は……倒した。もう、脅かされることはない」


 一瞬、静寂が村を包む。


 次の瞬間――


 「おおおおおおっ!!!」


 歓声と拍手が巻き起こった。子どもたちが走り回り、獣人の女性たちは涙をぬぐいながらカールたちに近づく。


「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」


 老人が手を震わせながら頭を下げた。


「この地を守ってくださったこと、一生忘れません……!」


 カールはその頭をそっと支え、静かに笑う。


「……助けたかっただけです。あの影に喰われた命の分まで」


 セリアが並んで頷いた。


「もう、大丈夫です。瘴気も、自然と薄れていくでしょう」


 リーリアンは腰に手を当てて、少し得意げに言った。


「ま、あたしがいたからってのもあるわよね!」


 「おれのことも忘れるなよ!」とルゥが吠え、村の子どもたちが「しゃべったああああ!」「すごい! フェンリルだ!」と目を輝かせる。


 そのまま、村人たちの手で宴が開かれた。


 焼いた獣肉の香ばしい匂い、果実の甘い香り。歌が流れ、踊りが始まり、夜の帳が降りても、村は灯りに包まれていた。


 ――村を守った英雄たちを迎える、ささやかな祝宴。


「……なに、このお肉。おいしい!」


 セリアが目を丸くして感動する一方で、ルゥは丸焼きの鳥にかぶりついていた。


「うまいっ! もう一羽もらえるか?」


 村の少年が笑いながら差し出す。


「ルゥ兄ちゃん、すっげー! また一緒にあそんで!」


 「にいちゃん」呼ばわりされて、ルゥはなんだかくすぐったそうに笑っていた。


 一方、カールとセリアは焚き火のそばで肩を並べて座っていた。


「……ねえ、カール」


「ん?」


「さっきの戦い……力に飲まれそうになってたでしょ。わたし、すごく怖かった」


 カールは少し目を伏せ、右手の契約紋を見る。そこには、今もかすかにウロボロスの紋が光っていた。


「……ああ。でも、お前の声が、戻してくれた」


 セリアは小さく微笑む。


「私、あなたの恋人だからね。どんな時だって、あなたを呼び戻すよ」


 カールは照れくさそうに頭を掻いた。


「……頼もしいな、魔女さま」


「ふふっ、でしょ」


 その頃、少し離れた場所では、リーリアンが角を撫でられてむくれていた。


「ちょ、ちょっと! なに触ってんのよ子どもたちー!」


 「この角、すっごーい!」「きれいー!」と子どもたちはきゃあきゃあと笑い、リーリアンはぷくっと頬を膨らませた。


「もう……いいけど。カールのために我慢する……」


 その目がふとカールとセリアの姿に向く。少しだけ寂しそうな顔。でも、すぐに元気よく笑った。


「まっ、旅はこれからよね!」


 ――そして夜が明けた。


 再び旅立つ朝、カールたちは村人たちに見送られていた。


「また来てねー!」「気をつけて!」「ありがとー!」


 あの少年が、小さな袋を差し出した。


「これ、薬草と干し肉……道中、役に立つと思って」


 カールは優しく受け取り、少年の頭をそっと撫でた。


「ありがとう。また必ず来るよ」


 朝霧の中、カールたちは歩き出す。


 セリアが手を振る。ルゥが元気に吠える。リーリアンは振り向きもせず、前を見て進んでいく。


 その背に、青空が広がっていた。


「……行こう。北の果て、“白銀の地”へ」


 カールの声に、仲間たちが頷く。


 旅はまだ、終わらない。


 世界のどこかで、また誰かが救いを求めている。


 そしてきっと――その先に、彼ら自身の運命が待っているのだから。

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