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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第23話 カール=キリトの新たなる力

 谷を抜けた先の森の中――。


 焚き火の明かりが揺れる静かな夜。木々の間から、月が優しく照らしていた。


 「……ふう。ようやく落ち着いてきたね」


 リーリアンが草の上にぺたんと座り、背伸びをした。


 「でもすごかったよね! カールがあのウロボロスと本当に契約しちゃうなんて!」


 「ええ……まさか、竜と心を通わせるなんて」


 セリアも腰を下ろし、湯気の立つカップを両手で包み込んだ。


 その隣で、カールは無言で《ドラゴンキラー》を見つめていた。


 ――その刀身は、以前とは違っていた。


 深紅の色はそのままだが、まるで呼吸をしているかのように淡く輝き、柄の根元には“竜眼”を模した意匠が浮かび上がっている。


 「どう? 体の具合、変わったりしてる?」


 「……ああ。力が体の奥から満ちてくるのがわかる」


 カールは剣を立て、地面に軽く突き刺してみせた。すると、まるで風が走るように地表に竜の鱗の模様が刻まれていく。


 「これは……魔力の流れを具現化してるの?」


 セリアが目を見張る。


 「たぶん、ウロボロスの“竜の加護”ってやつの効果だと思う。魔力の流れが目に見えるようになったんだ」


 「目に……見えるってことは、敵の魔法の構成も読めるってこと?」


 「うん。動作の前に術式が浮かぶ。たぶん、戦闘中にも“未来の動き”を予測できるようになる」


 「うっわ、チートじゃん!」


 ルゥがぱたぱたとしっぽを振りながら飛び跳ねた。


 「あと、剣も変わってる。斬撃に“魔法属性”をまとえるようになってる」


 カールが立ち上がり、目の前の倒木に一閃を放つ。


 「《閃熱断》!」


 瞬間、剣が赤い光をまとうと、倒木がまるごと蒸発した。


 「……今の、炎属性の斬撃魔法? すごい、詠唱も構築もしてないのに!」


 「これが《竜契》の力……」


 カールが手の甲を見つめる。そこにはウロボロスとの契約紋が、淡く光を放っていた。


 「それだけじゃないよ」


 リーリアンがにっこり笑って、指をカールに向けた。


 「魔力の流れがね、安定してるの。普通、人間の魔力って感情で揺れるけど……今のお兄ちゃん、全然ブレてない」


 「ウロボロスの影響だな。奴の魂が、俺の中に“静寂”をもたらしてる」


 「……すごい。冷静で、強くて、それでいて誰かを傷つけたくないっていう……そんな心が、はっきり伝わってくる」


 セリアが小さくつぶやくように言った。


 「でも、力を持ったら、それだけ責任も増えるわ」


 「わかってる。……この力は、誰かを踏みにじるためのものじゃない」


 カールは目を細めた。


 「リーリア、セリア。俺一人じゃ、きっとこの力に溺れてた。……お前たちがいてくれるから、俺はちゃんと“人間”でいられるんだ」


 二人は、少し顔を赤らめて視線をそらす。


 「そ、そんなの当然よ。あなたが勝手に竜に食べられたりしたら、困るから」


 「べ、別にわたしは……! その……仲間として、そう言ってるだけで……!」


 「……ありがとうな」


 カールが照れ臭そうに笑うと、火の粉がパチッと空に弾けた。


 その空に、かすかな竜の唸り声が聞こえたような気がした。


 「カール。竜の加護って、他にも何かある?」


 ルゥが興味津々に首をかしげる。


 「ああ、実はウロボロスがもう一つ残してくれたものがある」


 カールは、懐から一つの小さな“竜の牙”のペンダントを取り出した。


 「これは……」


 「“竜封の牙”。魔力を貯めることで、あと一度だけ、ウロボロスの力を借りることができる。いわば、奥の手だ」


 「一回きり……」


 「でも、それってめっちゃ重要な場面で使うやつだよね!」


 リーリアンが目を輝かせる。


 「そうだな。世界が終わりかけたときにでも、使わせてもらうさ」


 「まったく……あなたって、いつもそうやって命を賭けるんだから」


 セリアが困ったようにため息をつく。


 「でも、そういうところ……ちょっとだけ、嫌いじゃない」


 「へへ、ありがとな」


 月明かりの下、風が森を抜けていく。


 《竜契》という新たな力を得た今――この物語は、さらに深く、運命の核心へと近づいていく。

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