第22話 エンシェントドラゴンとの戦い
「――ならば見せよ。人の子よ」
ウロボロスの瞳が、金色に輝いた瞬間、谷全体に凄まじい衝撃波が走った。
「くっ――!!」
カールは剣を抜き、咄嗟にその波を断ち切る。
「全員、散開! 攻撃が来る!」
「了解っ!」
セリアが風の魔法で霧をはらい、リーリアンはピンクの魔力をまとって跳躍する。
ウロボロスの巨体が空に浮かぶ。羽ばたき一つで、岩壁が吹き飛んだ。
「これが……伝説の竜の力……!」
セリアが氷の盾を展開しながら叫んだ。
「半端な魔法じゃ通じないわ!」
「でもやるしかないよねっ!」
リーリアンが叫ぶと同時に、四方から魔弾が放たれた。火と氷、雷と風――しかし、そのすべてを、竜の鱗がはじき返す。
「固すぎ……!」
「これは“神の鎧”よ。千年の時を越えて、精霊たちが編み上げた絶対の防御……!」
セリアの声に、カールが剣を構える。
「じゃあ……突破するしかない!」
彼の手にある《ドラゴンキラー》が、血のように赤く輝いた。
「うおおおおおおっ!!」
跳躍。竜の首元へと一直線に突き進む。
ウロボロスが咆哮する。それは雷となり、大地を焼いた。
「カール、危ない!!」
ルゥが叫び、霧の中から体当たりするように飛び出す。彼の背に、ほんの一瞬、青白い光の羽が見えた。
「今だよ、カール!!」
ルゥの叫びとともに、カールは竜の左目を狙い、剣を突き立てた。
「これが……俺たちの、意思だあああああっ!!」
赤い刃が、神の鱗を砕いた。
ウロボロスの体がぐらつき、低く唸った。
「……なるほど。人の子よ。貴様の力、確かに見せてもらった」
巨竜が、ゆっくりと地に降り立つ。
「戦えば貴様らは死ぬ。だが――貴様は戦うことを選ばず、言葉を選んだ」
「俺は……無駄な血を流すより、意味のある未来を選びたいだけだ」
カールは剣を収めた。
「人と竜が争っても、もう何も生まれないだろ? それより、共に世界を守る方法を探したいんだ」
ウロボロスは、しばし黙した。
谷に、沈黙が降りる。
やがて――
「……貴様が初めてではない。かつてもいた。そう語った者が。しかし、彼らは皆、時とともに“信じること”をやめた」
「俺は違う。信じるよ。仲間も、自分も。そして、あんたも」
「…………」
竜の瞳が、深く、ゆっくりと閉じられた。
そして、彼は言った。
「名を告げよ、人の子よ。我が力を授けるに値する者の名を」
「カール=キリト。剣聖で、旅人で、ただの一人の人間だ」
「……よかろう。では、誓え。我が名、我が魂、我が力を汝に授ける。汝はそれを正義のために使うことを誓うか?」
カールは、ぐっと拳を握った。
「誓う。世界を守るために、絶対に裏切らない」
「ならば――我が名を冠せよ。今より汝は、ウロボロスの盟友、そして『竜契の者』なり!」
轟音とともに、竜の巨大な翼が広がる。
空が揺れ、光が降り注ぐ。
次の瞬間、カールの背に、赤黒い紋章が浮かび上がった。
「これは……!」
「契約の証よ。カール、すごい……!」
「あなた、本当に竜と……!」
セリアとリーリアンが同時に声をあげた。
ウロボロスが天を仰ぐ。
「さあ、進め。我が力を得た者よ。お前たちの道は、ここから始まる。……世界の命運を、託すに足る者よ」
「ありがとう、ウロボロス」
カールが微笑んだ。
ルゥが、ちょこんと彼の足元に座る。
そして三人と一匹は、竜の見送る中、ゆっくりと谷をあとにした。
新たな力を携えて――次なる運命に立ち向かうために。




