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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第19話 歪みの洞(ほら)の冒険

 歪みのほらは、まるで生き物のようだった。


 岩の壁はねじれ、天井は不自然に歪み、奥へ進むにつれて空気が異様に冷たくなる。まるで時が止まり、空間がぐちゃぐちゃに折り重なっているかのようだった。


 「これが……“歪み”ってことなのね」


 セリアが杖を構えながら、静かに呟いた。銀髪が淡く揺れるたび、魔力の粒が空中に散っていく。


 「気を抜くなよ。何が起きてもおかしくない」


 カールは剣を半ば抜きかけたまま、前を進む。


 「うー、ここ……空間がグニャグニャしてて酔いそう……」


 ルゥはカールの足元でぐるぐる回っていた。


 「さっきから同じ場所を歩いてる気がするわね……。これ、本当に前に進めてるの?」


 リーリアンが不安そうに呟く。


 「ふむ。ここは、時間と空間の概念が乱れているらしいわ。前に進んでいるようで後退してる……って可能性もあるかも」


 「マジで!? どうすんのよそれ!」


 「でも、村長が言ってたでしょ。“正しい言葉”で道が開けるって」


 セリアは、懐からあの巻物を取り出した。


 「誓約の三言葉、だったな」


 カールが立ち止まって頷く。


 セリアが巻物を広げ、ゆっくりとその言葉を読み上げる。


 「――“我らは、力を誓いとし、心を剣とし、命を共に刻む”」


 その瞬間。


 空間がぶわっと波打った。


 ねじれた壁が音もなく動き、目の前の岩盤が二つに割れた。


 「やった……開いた!?」


 「合言葉が鍵だったのね……!」


 リーリアンが瞳を輝かせる。


 しかし、そこから先の通路はただの洞窟ではなかった。床が迷路のようにくねり、天井には巨大な水晶が浮いている。まるでどこかの神殿のような荘厳さと不気味さが混じっていた。


 「行こう……まだ終わりじゃない」


 カールが先頭に立つ。


 数分も進まないうちに、突然、足元の床がガタンと沈んだ。


 「うわっ、カール!」


 セリアが思わず叫ぶ。


 だが、カールはすぐに体勢を立て直し、罠には落ちなかった。


 「危なっ……! これ、重さで反応する床か!」


 「今度はダンジョンみたいな仕掛け!? まさか本気で試練があるなんてね!」


 リーリアンが背筋をピンと伸ばして構える。


 そのとき、壁から突如、黒い霧が溢れ出してきた。


 「きゃっ……!」


 「気をつけろ! 魔瘴だ!」


 セリアがすかさず魔法陣を展開する。


 「《フリージング・ドーム》! 冷気で霧を凍結させる!」


 霧が触れた瞬間、氷の結界に阻まれて動きを止めた。


 「ナイス、セリア!」


 「ありがとう、でも……魔力消費が激しい。ここからは慎重にいきましょう」


 そして、三人と一匹は再び進み始めた。


 奥に進むと、今度は開けた広間が現れた。


 中央には、黒い炎をまとう鎧の戦士が待ち構えていた。


 「ようこそ、選ばれし者たちよ……」


 その声は不気味で、しかしどこか寂しげだった。


 「誰だ……?」


 カールが剣を抜く。


 「我が名は“記憶の番人”。ここでお前たちが“真に戦う覚悟”を持っているかを試す者だ」


 「覚悟……?」


 「いかなる犠牲を払ってでも、大切な者を守り、使命を果たす覚悟があるか。命を捨てる覚悟ではない。“生き抜く覚悟”だ」


 番人が剣を構える。


 「さあ、来い。答えを剣で示せ!」


 「来るぞ!」


 カールが突っ込んだ。


 番人との戦いは激しかった。彼の剣は炎を纏い、動きは人間離れしていた。


 「《スパークブレード》!」


 カールの剣が電光を放ち、番人の鎧を叩いた。


 「甘い……だが、いい剣だ!」


 「援護するわっ、《アイスランス》!」


 セリアの氷槍が番人の動きを止める。


 「隙ありっ、《マジックバースト》!」


 リーリアンの放った爆裂魔法が広間を包む。


 ついに番人の鎧に亀裂が走った。


 「見事だ……。お前たちには、その覚悟があるようだ……」


 番人は、剣を収めると跪いた。


 「ドラゴンキラーの眠る間へ、進むがよい。願わくば、運命に打ち勝たんことを……」


 その言葉と共に、番人の姿は光に変わって消えた。


 「……勝った、のか?」


 「ええ。でも……これはまだ“試練”の第一段階に過ぎない気がするわ」


 セリアが息を整えながら言う。


 「でも、進める道は開けたんだから……やるしかないでしょ?」


 リーリアンが前を向く。


 「そうだな。ドラゴンキラーはすぐそこだ……行こう」


 カールの声に、皆が頷いた。


 歪みの洞は静かに、しかし確かに、彼らを次の試練へと導いていた。

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