第15話 ドラゴンニアー村の惨劇
竜骨峡谷へと続く山道を抜け、陽が傾きかけた頃。
「――あれ、ドラゴンニアー村じゃないか?」
ルゥがカールの肩の上でぴょこんと耳を立てた。先の道の向こうに、ぼんやりと煙が立ち上っていた。
「……煙? 焚き火にしては、ずいぶん広がってない?」
セリアが目を細める。ピンク髪をなびかせたリーリアンも険しい顔でつぶやいた。
「これは……まさか火事!? 村が襲われてるかも!」
「行こう!」
カールの声と同時に、彼らは駆け出した。
◇ ◆ ◇
ドラゴンニアー村に近づくにつれ、焦げた木のにおいと、怒号、悲鳴が耳に飛び込んでくる。
「ひっ……やめて、お願い!」
「いい子にしてなァ! その宝石、渡せば命は助けてやるよ!」
「やっぱり、盗賊だ!」
リーリアンが魔力をまといながら言うと、セリアもすでに呪文の構えを取っていた。
「行くわよ、カール!」
「――ああ! 一人も傷つけさせない!」
カールは剣を抜き放ち、疾風のごとく飛び出す。
「くらえっ、邪魔するなああああっ!」
斧を振り上げた盗賊が、村人に襲いかかる――その刃が届く直前。
「――“風刃・三連閃”!」
カールの剣が三度閃き、盗賊の武器は弾かれ、腕を切り裂かれた。
「ぐあっ!? な、なんだお前ッ!」
「剣聖、カール=キリトだ」
「……お、おい、まさか本物かよ!? あのフリューゲンの剣聖ってウワサの……!」
盗賊たちが一瞬たじろぐ。
そこへ、セリアの氷魔法が、空中で美しい結晶を描いた。
「“フロスト・バインド”」
足元から伸びた氷の鎖が、盗賊たちの脚を次々と絡め取る。
「動けっ……ないっ!」
「さあ、そろそろ終わりよ?」
リーリアンが火花を散らしながら、両手に魔法陣を展開する。
「“フレイム・バースト・ツイン”!」
轟音とともに、二発の爆炎が盗賊の背後で炸裂。退路を断たれた彼らは完全に戦意を失った。
「ひ、ひいっ! もう降参だ、降参ッ!!」
「なら、武器を捨てて、村人たちに謝りなさい」
カールが剣を構えたまま迫ると、盗賊たちは情けない声をあげながら命乞いを始めた。
◇ ◆ ◇
戦いが終わった後、村の広場には人々が集まっていた。
「本当に……ありがとうございました」
「あなたたちが来てくれなければ、私たちは……」
中年の村長が、深く頭を下げる。
「この辺りは王国の守備が薄いので、盗賊に狙われやすくて……本当に情けない話です」
「いいんです、助け合いですから」
カールは柔らかく笑い、肩のルゥが胸を張る。
「オレも一匹くらい噛んでやったからな!」
「ふふ、偉いわね、ルゥ」
セリアがルゥを撫で、リーリアンがそっとつぶやく。
「……あんなヤツらに、大切な人や村を壊されてたまるか」
「え?」
「なんでもない。行こ、カール」
「うん……でも、少しだけ休ませてもらおう。日も暮れそうだし、明日にはまた出発しなきゃ」
「竜骨峡谷、待ってくれないもんね」
セリアが小さく笑うと、カールもふっと笑った。
「でも、今日の戦いで改めて思ったよ。誰かを守るために、俺たちは強くなりたいって――」
その言葉に、リーリアンもセリアも頷いた。
ルゥも小さく「ワン」と吠えた。
小さな村の夜。焚き火の明かりの中で、再び彼らの絆は深まっていた。




