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婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!  作者: 山田 バルス
第2章 カール=キリト 魔王国編

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第6話 指輪と約束と――王都に吹く春風

「指輪と約束と――王都に吹く春風」



王都ルメリアにも、ようやく春の風が吹き始めていた。


冒険者ギルドから戻ってきたカールは、ふとした拍子にエミリーゼから、ある一言を耳にした。


「そういえば、リアナさん……昨日、アレン=ノヴァから指輪を贈られたそうですよ?」


「……指輪?」


「ええ。魔術の研究協力に対する感謝のしるしだそうですが……とても綺麗だったと、噂になってます」


胸の奥が、どこかざわついた。


リアナがアレンから、指輪を――


カールは無言のまま、軽く頷いてその場を離れた。アレン=ノヴァとリアナの恋の行方が周囲が温かく見守っている。


それでも、心のどこかに小さな何か引っかかるもののような感覚があった。


(リアナが指輪を……嬉しそうに、していたのか?)


その日の午後、カールはふと思いついて、セリアを街へ誘った。


「セリア。少し、外を歩かないか」


「ええ? 今日、午後は予定が……でも、うん。行く」


驚いた顔をしていたが、セリアはすぐに笑みを浮かべ、外套を羽織った。


カールは街へと足を向けながら、自分の中で整理できていない感情と向き合っていた。


リアナの笑顔が、頭をよぎる。


セリアの横顔が、それと重なる。


――自分は、何をしたいのか。


その答えを見つけるように、王都の街並みを、二人は並んで歩いた。


* * *


「……ここ、前に来たことがあるわ。覚えてる?」


セリアがそう言ったのは、小さな噴水のある広場だった。


春の陽射しが差し込み、子どもたちが花を摘んで遊んでいる。


「ああ。冬の終わり頃だったか。あの時も、こうして二人で歩いたな」


「……そう。あの時より、今のあなたの顔のほうが、ずっと穏やかに見える」


セリアはそっと笑って、カールの袖を少し引いた。


「最近のあなた、無理してるように見えたの。でも、今日は……なんだか、ほっとする」


「……セリア」


言葉が詰まる。彼女は気づいているのだ。自分の中の些細な動揺や、揺れを。


「何か、あったの?」


「いや……ただ、指輪を見に行こうと思ってな」


セリアがぱちりとまばたきをした。


「え?」


「いや、違うな。君に、何か贈りたいと思ってた。……最近、何もしていなかったから」


セリアの頬が、ふわりと紅潮する。


「それって……そういう、意味で?」


「そういう意味で」


そう答えると、セリアはしばらく黙って、視線を足元に落とした。


だが、次の瞬間、彼女はいつもの毅然とした声で言った。


「じゃあ……見るだけじゃなくて、選んで。あなたの目で、私に似合うと思ったものを」


* * *


王都の宝飾通り。煌びやかな店が並び、魔石細工のアクセサリーが通りを彩る。


カールは店をいくつか回ったあと、ふと、路地の奥にひっそりと構えられた小さな宝石店に目をとめた。


看板に書かれていたのは「レルシュの宝石亭」。


古びているが、どこか温かみのあるその佇まいに惹かれ、セリアとともに足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ、お若い方。……指輪を、お探しですか?」


老齢の女性店主が、柔らかな口調で迎えてくれた。


カールが黙って頷くと、店主は微笑み、奥の棚からいくつかの小箱を取り出してくる。


「こちらは精霊石をあしらったもの。こちらはエルフ銀で編んだ細工。……でも、あなたの目は、あの子を見てますね」


「……え?」


「選ぶべきものは、宝石ではなく、その人に映えるもの。たとえば、これなどは」


店主が取り出したのは、月光のように白く輝く小さな石を中心に据えた指輪だった。


「これは、“月の涙”と呼ばれる珍しい石。誠実な絆を象徴します」


カールは一瞬、その石にセリアの姿を重ねた。


月明かりのように静かで、真っすぐで、揺るがない彼女の瞳。


「……それにします」


* * *


街を歩いていたときよりも、セリアはどこか落ち着かなくなっていた。


「なんだか、変ね……私、変な顔してない?」


「してない。いつも通り、美しいよ」


「っ、そういうことを、さらっと言うようになったわね……」


そんなやり取りを交わしながら、二人は帰り道を歩く。


ふと、カールは立ち止まって、セリアに向き直った。


「セリア」


「……なに?」


「これを、受け取ってほしい」


小さな箱を差し出す。セリアがそっと開けると、月の涙の指輪が光を反射して輝いた。


「……これは」


「君がずっと、そばにいてくれること。俺の信頼と、感謝と……それから、願いを込めて贈る。受け取ってくれるか」


セリアは、小さく息をのんだ。


そして、ふるふると頷く。


「もちろん……私は、あなたと歩きたい。これからも、ずっと」


カールが指輪をそっとセリアの薬指にはめると、彼女の頬に涙がひとしずく、伝った。


それを見て、カールもようやく心の中のざわつきが消えていくのを感じた。


リアナが誰かに指輪を贈られたのなら、それはそれで構わない。


――自分は、自分の大切な人に、想いを伝えればいい。


その夜、屋敷に戻ったセリアは、指輪を何度も見つめながら、静かに微笑んでいた。


ティナがその様子に気づき、こっそりレーナに耳打ちする。


「お母さん、セリア様、すごく嬉しそう……」


「ふふ……そりゃそうさ。好きな人から、誓いの印をもらったんだもの」


レーナは台所からスープの香りを漂わせながら、そっとその光景を見守っていた。


あたたかな春の夜風が、王都の屋敷にそっと吹き込んでいた。


◇  ◇  



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