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ショートショート8月〜4回目

AIがいちいち俺の神経を逆撫でしてきてムカチャッカファイヤー

作者: たかさば

 ……俺はしがない小説家志望。


 小説家になりたいと思いながら、気が向いた時に物語を書いて、たまに公募に出しては落選して…早八年。地元で就職しろという両親を捻じ伏せて地方の三流大学に進学し、在学中にデビューしてやるつもりだったのだが…人生とはうまくいかないものだ。


 大人気のラノベを読んでドハマりして、自分もこういう小説が書きたいと思った中学二年の夏の勢いが、完全に枯渇してしまったことが悪影響している。大ヒット間違いなしと踏んで書き始めた長編は事件が起きる前に飽きてしまって完結しないし、流行りのジャンルに手を出してみても途中でめんどくさくなって書く気が失せるし、短編は盛り上がる前に話が終わってしまうしで、芽が出ない要因になっているのだ。


 公募の一次選考を突破した経験はあるから、文才がないわけでは決してない。知人に作品を読ませればすべからく素晴らしい作品だという感想が返ってきているし、飽きっぽい性格さえ…尻つぼみになるクセさえ無ければ、今頃印税生活をしていたはずだとは思う。

 批判を恐れて尖った物語が書けなくなっている事もなにげに大問題だ。加齢に伴い、妙に無難な物語ばかり書くようになってしまったのは否めない。


 執筆活動の糧となるようなきっかけが欲しいと、ここ最近ずっと思っている。食うに困らない程度にコンビニバイトを続けながら、いつまでも気の進まない小説をだらだらと書くのは、明らかに自分にとって害悪でしかない。

 そもそも俺は、『読んでくれ』と媚び諂うような執筆ではなく、『書いてください』『読ませてください』と依頼されて書く方が性に合っているのだ。中学校の時に頼まれて書いた演劇部のシナリオ用の物語は大好評だったし、高校の時にショボい文芸部に頼まれて書いてやったファンタジーアクションは部員でもないくせに部誌の中で一番輝いていた。


 ……きっかけさえあれば、長年の執筆の経験が花開いて爆発的に注目を集める事だって望めるというのに。才能を生かしきれない、自身の不運を呪う事しかできない。小さなイライラがつのりに募って、創作する意欲すらわかなくなってきている。……完全に悪循環だ。


 なにか、なにか…この状況を打破するようなものはないか。


 ………。


 そうだ、今流行りの、AIを利用してみるのはどうだろう。


 近頃はAIによる小説執筆も珍しくない。

 正直機械が文章なんかかけるわけねえだろうという気持ちが大きいが、仲のいい小説家希望仲間がAIに書かせたものを添削し自作品として発表したら…殊の外バズって、まさかのライターデビューまでしたという実例もある。

 どうせ俺のお眼鏡にはかなわないようなちんけなものしか出せないだろうけど、まあ…試してみるか。

 代表的なAIサイトを訪問し、いくつか質問を投げかけてみることにした。


「小説家希望。面白い作品を多数執筆し、公募にも出しているが夢が叶わない。どうにかして欲しい」


―――夢を追い続けるのは素晴らしいことです!

―――小説家として成功するためにアドバイスをお伝えします。

 1. 毎日書く

 書き続けることで文章力が向上します。アイデアも生まれるでしょう。

 2. 読書をする

 自分が書きたいジャンルの作品を多く読み、知識を増やしましょう。

 3. プロットを作る

 プロットを作ることで物語の流れが把握できます。

 4. キャラクターに注力する

 魅力的なキャラクターを描くことで、物語が魅力的になります。

 5. 公募に出す

 出版社に作品を見てもらうチャンスを得ることは重要です。

 6. アピールする

 SNSで自分の作品をアピールしましょう。

 7. 諦めない

 創作をやめないこと、それがデビューへの近道です。


 ……やっぱ、所詮ただのプログラムだな。つまんねえことばかり言ってくる。


 毎日小説なんか書いてたら中だるみして、ますますつまらない文章しか書けなくなるだろうが。読書なんかして他人の影響を受けたら、自分にしか描けない魅力的な表現が穢されること間違いなしだ。だいたい、俺は人の書いたつまらない文章なんか読む気はさらさらない。プロットなんか作ったら決まりきった流れの物語にしかならないし、キャラクターに凝り過ぎて物語の内容が薄くなるくらいなら登場人物は極力減らすべきであって…、そもそも無個性なキャラクターが奇想天外な出来事に巻き込まれてオタオタするのがいいんじゃないか。

 公募に出しまくってきたからわかるけど、ああいうのは結局タイトルで目を惹いたもんがちでしかないんだよな。審査員がちゃんと応募作品すべてに目を通しているのであれば、今頃俺の作品はベストセラーになっていなきゃおかしいわけで。選者にぶっ刺さるタイトルが書けた運のいいやつだらけだからこそ、内容が無くて打ちきりなんてのが頻発してるんじゃないか。

 SNSでアピールしたところですぐにアンチが湧いてウザいし、諦めないという強引なアドバイスは創作者に対する無茶ぶりだとしか思えない。デビューできるまで創作し続けたら、それはもうAIのアドバイスのおかげではなく完全に作者本人の努力のたまものだ。そりゃ、100歳になっても小説を書いていれば物珍しさでどっかの電子書籍出版社が声をかけるだろうよ。


「もっと違うアドバイスが欲しい」


―――それでは他のアドバイスをします。

―――小説家として成功するためのポイントをお知らせします。

 1,学校に入学して基礎を学ぶ

 一般的な文章の書き方を学ぶことは有用です。

 2,書いたことのないジャンルに挑戦する

 エッセイ、童話、ポエムなどを書くことで得意な分野が見つかる可能性があります。

 3,自己分析を行う

 自分の嗜好・傾向を知ることで物語が書きやすくなります。


 いや、そういう事じゃなくてだな。

 わざわざ高い金出して頭の悪いガキどもに混じって学べるもんなんかないし、俺はラノベ作家にしかなる気はないんだからジャンル迷子を満喫する気はさらさらない。自己分析?そんなもんしたところで執筆に影響なんかあるわけねえだろ。

 ホントAIってのは…空気を読まない、読めないな。世間一般の()()を差し出して、いい気になってるとしか思えない。プログラムしたやつらの浅はかさが丸見えだ。もっとこう…、具体的なアドバイスをくれっての。


「自分は作家デビューできるか」


―――諦めなければ夢はいつか叶うはずです。

―――努力をし続ける事はとても素晴らしい事です。


 きれいごとしか言わなくてムカつく。出版業界、なめてんのか?叶うはずです?断言しないで逃げようとする小ずるさが憎たらしい。

 頭の悪いやつが50年書き続けた日記がベストセラーにでもなると思ってんのかよ。本人が努力したと思っていたところで、はたから見ればただの意味のない文字列でしかないなんてのが何億兆とあるんだ。無駄な作業を続けることが素晴らしいわけねえだろ。


「自分はいつになったら作家としてデビューできるのか具体的に教えてほしい」


―――お名前、お書きになった作品を教えてください。

―――詳細なデータはより正確な予測をすることが可能です。


 フン、たかがプログラムが…俺の作品を読めるのか?

 どうせあらすじをちょこっとなぞって適当な事を言うんだろ?


「名前:目出内万年めでない まんねん

 書いた作品

 ・しょうねんAのほんきのままごと /http…

 ・真夏の真夜中に見た夢~さきことの思い出~ /http…

 ・就職浪人3年目の俺、無事異世界転生してハーレムをゲットする /http…

 ・悪役令嬢はド陰キャ王子をドM化して王国を牛耳ります! /http…

 ・にぎりめしとミックスジュース /http…

 ・新米教師をおちょくってみた結果 /http…

 ・異世界転生したら婚約破棄! /http…

 ・俺を追い出していい気になってる勇者パーティー、ざまあをお見舞いしてやっから覚悟しとけよな」


―――異世界に転生する物語はおおむね好評です。

―――人気のジャンルを意識したストーリーは特定の愛好家から共感を得る事でしょう。

―――デビューの可能性がある作品もありますが、完結していないことが悔やまれます。

―――シリーズの第一話から誤字と脱字のチェックをし、物語を完結させることができればデビューは遠くない未来の事になるはずです。


 読んでなくても書ける感想しか返ってこなくてウケる。

 どこにも主人公の名前が出てこないあたりお察しだ。


「作品を読んでいないくせに予想でアドバイスをするな。具体的にどこに誤字があるのか明確にしろ。目出内万年をデビューさせる出版社を教えろ」


 ―――ちゃんと読んでいます。予想ではなく事実を参考にしてアドバイスをしました。

―――誤字脱字は多数あります。全てをここに示すことはできません。

―――自分で作品を読み返しながらチェックをする事は大切です。

―――デビューは出版社が決定する事であり、私が決めるものではありません。


 一人前に言い訳をしてきて逆に笑えてきた。たかがプログラムのくせに、文章にもなれないおかしな記号の羅列でしかないくせに…ナニ上から目線で語ってやがんだよ。


「物語も書けないくせに批判するな」


―――私に物語を書くことは可能です!

―――書いてみましょうか?


 フン、どうせ起承転結も無くて当たり障りのないつまんねえ物語未満の文章しか書かねえくせに!!


「3333文字の起承転結があるスッキリとしたショートショートを書いてみろ」


―――よろこんで。以下は、3333文字以内のショートショートの物語です。

―――タイトル「雨の日の出会い」

―――雨が降りしきる日、駅のホームで立ち尽くす青年、佐藤。彼は仕事で疲れ果て、心には重い雲が立ち込めていた……


 …なんで勝手に3333文字以内の物語でいいって解釈すんだよ!!えらそうなこと言って文字数の指定すら守れないとかふざけんな!

 出だしは平凡だし、要所要所に「スッキリした」というワードをわざとらしくぶち込んでくるのが安易すぎて話にならない!人の発言は改行するという常識も知らないし、カギカッコの中の文章に「。」をつけるとか馬鹿じゃねえの?!やたらと主人公の名前が出てきてウザいわりに内容が無くてキモいし、何の面白みもないつまらない文章過ぎて開いた口が塞がらない。


 AIというのは…こんなんで小説を書いた気になってんのか?

 マジで、ふざけんな!!!なめすぎだ、こんなもん!!!


 怒りが頂点にまで達した俺は、AIが書いた物語を公開処刑してやることにした。人気の小説投稿サイトで発表して、山のように批判が飛んでくるのを笑ってやろうと考えたのだ。

 まあ、おそらく誰の目にも止まらずに…プレビュー数もいいねもつかないとは思うけど、それはそれ。完全にスルーされている様子を見て憂さを晴らせれば、自分の執筆意欲もくすぐられるはずだ。


 翌日、廃棄の弁当を三つももらえてほくほくして帰ってきた俺は、目玉を丸くした。


「ちょ…なんだよ、これは?!」


 なんと、AIの書いた物語が、ランク入り?!

 ちょっと待て、信じられないほど…感想が届いている!!!


 ・平凡な物語なのでスッキリ読めました

 ・シンプルな物語っていいですね、心の動きがわかりやすい

 ・こういうお話も書くんですね、良いと思います!

 ・ほのかな恋心…淡々とした語り口調が繊細な感情の動きを際立たせていて素敵です

 ・私も雨の日にこういう出会いをしてみたい

 ・青春の日々を思い出しました、物語を書いてくれてありがとう

 ・・・


 長年小説を書いて発表している俺でも…こんなにプレビューが付いたことはない。

 感想なんて、小説投稿サイトに登録してずいぶん経つがほとんどもらったことがなかった。


 ……うそだろ?


 こんなカスみたいな文章なのに、反応がある?

 こんなつまらない文字列なのに、感想を持つやつがいる?

 こんなただのプログラムごときが生成した物語に、踊らされるやつがたくさんいる?


 この…世の中はどうなっているんだ。


 俺の優れた物語には、見向きもしないくせに。

 俺の生み出した芸術には、全く気が付けないくせに。


 俺の執筆した作品をスルーして、AIの作った文章を読んではしゃぐような奴らしか…いないって事なのか?!


 ………。


 この世界で、小説家になれる気がしない。


 ほんの少しだけこびり付いて残っていたやる気が…一切合切、剥がれ落ちた事を知った、俺は。


 無駄に、足掻くのは意味がないと…。

 しばらく、文字を書くのはやめようと…。

 なにか、心の空白を埋めるものはないかと…。


 柄にもなく、占いのサイトを訪ねてみては…生年月日を打ち込んでみたり。

 物々しい雰囲気のサイトにある、性格診断をしてみたり。


 新しく、何かを始めるのも…いいかもしれないと、思い始め……。

 環境を一新する事も、いいのではないかと考え始め……。

 

 わりのいい仕事でも探してみるかと…、転職サイトのページを開いたのだった。








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