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春に溶ける雪  作者: 秋月
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第5話

あれから彼女の家に帰って私はお泊まりをすることになった。次の日彼女は仕事だけど、夜遅く帰らせたくないのと付き合った日は一緒にいたいとの事。とりあえず今は2人で映画を見ながら私が作ったご飯を食べてる。

「春ちゃん、、、私は知らなかった。」

唐突に彼女の言葉にびっくりして首を傾げた。

「手料理がこんなに美味しいだなんて!」

彼女は口にパンパンに詰めながら食べてる。先程までのかっこよく紳士な彼女ではなく今は子供みたいに可愛い。

「そんなに詰めたら喉詰まるよ?」

私は彼女のコップにお茶を入れてあげる。なんか同棲してるみたいでちょっと私もワクワクしてた。

「ほんとに春ちゃんって家事できるんだね?!」

目を丸くして私を見る。彼女のコロコロと変わる表情に私はふふっと笑ってしまう。彼女もどこか嬉しそうだ。

「映画見てゆっくりして、お風呂入ったらベッドで寝ようか?」

時計を見る、今は20時を少し過ぎた頃。お風呂に入るならお湯を張った方がいいだろうと思い、ご飯を食べた彼女をソファーに座らせて私はご飯の後片付けとお風呂を洗う。

「私もなにかするよ?」

と彼女は言うが、私がやってあげたいと思ってしまう。よくなんでもやってあげちゃダメなんて言うけど、今は甘やかしたい。とても甘やかしたいのだ。テキパキと家事をする私を見ながら彼女はとても嬉しそうに

「私の嫁はできる嫁だぁ!自慢の嫁だね?!」

なんて言う。照れる。すごく照れる。でも嬉しい。お風呂を洗いお湯を溜めてる間に彼女を呼ぶ。

「雪ちゃーん?お風呂もう沸くから入っちゃってー?」

すると彼女はパタパタと走ってきて

「春ちゃんも入るの!」

と言ってきた。いやいや、さすがにまだ恥ずかしい!無理!私は首を横に振る。彼女の感覚はバグってるのか?!付き合ってその日のうちには無理です。私には出来ません。

「じゃあいつか一緒に入ろうね?」

無理強いしないところがまた優しい。彼女は一人でお風呂に入る。時折鼻歌が聞こえる。ほんとに私の彼女は可愛すぎる。上がってくる彼女は髪の毛をしっかり拭けてなくて雫がポタッと落ちてる。私はこれはいけないと思ってしまった。母性なのだろうか?

「雪ちゃんこっち来て?髪の毛ちゃんと拭いて乾かそう?」

私は彼女の髪を丁寧に拭きドライヤーで乾かしてあげている。

「春ちゃんなんかママみたい!でも私は子供じゃないんだよ?」

ちょっと拗ねてる彼女は可愛い。とても可愛い。乾かしてる時にこちらを振り向きドライヤーを持ってる手ともう片方の手を掴んでグイッと引っ張る。キスされる。そう思って反射的に逃げてしまった。

「私、わがままだから愛情表現とかめっちゃしたいんだ。キスもしたいし、その先もさ、、、」

そう言いながら私が羽織る服をはだけさせる。私は真っ赤になる。そういう経験がない私はどうしていいか分からず俯いてしまう。

「ゆっくりで大丈夫!焦らせてごめんね?春ちゃんのペースでもしキスしたくなったらして欲しいな?」

したから覗く彼女は上から見るとより可愛くて美しい。私が今できる最大限のことをする。

「チュッ…今はこれが限界です…」

彼女のおでこにキスをする。耳が熱い。恥ずかしいけど彼女の言う愛情表現はこういうことなのかなと思いしてみたがとても恥ずかしい。

「ありがと!じゃあ私も…チュッ」

おでこにキスされた。私は思わず顔を隠す。こんな経験したことないから、どう反応していいか分からない。でも確かにこうやって好きを言葉だけじゃなく行動にするのもいいものだなと思ってしまった。その後は私もお風呂に入らせてもらい同じ布団でくっつきながら眠った。ほとんど私は緊張で眠れないけど、彼女はくっついて寝ている。ダメだとはわかっているが私は私にくっつく彼女を写真に収めた。とてもいい写真だ。これからきっと私のフォルダーには彼女の写真がたくさんになる。この写真は記念すべき1枚目。大切にしよう。絶対に。


目を覚ました私は時計を見る。結局あまり寝付けず、朝4時に起きてしまう。隣で眠る彼女の寝顔は子供みたいでお人形さんのように整ってる。写真を1枚だけ撮り私はキッチンを借りた。昨日買い出しに行ってよかった。朝ごはんを作る材料がある。お味噌汁と焼き魚と卵焼きに煮浸しと普通のご飯だが喜んでくれるか。もしかしたら朝食べないのかもしれない。なんて考えてると彼女のアラームが5時になる。早起きだななんて思いながら私は彼女のスマホの元に行き止めてから彼女を起こす。

「雪ちゃん?朝だよー?起きて?」

優しく揺すると彼女はまだ眠そうに起き上がり

「春ちゃんだぁ…なんでぇ…ねむいぃ…」

と私の膝の上に寝転がる。まるで子供みたいだな。と笑いながら頭を撫で

「遅刻するよ?」

というと起きた。偉いな、ちゃんと起きてなんて感心しつつ彼女の手を引いてリビングに行き椅子に座らせる。作った料理を出すと彼女は目を覚まし料理を見つめた。

「朝パン派だったかな?ごめん和食で…」

というと彼女はとても嬉しそうに言う。

「朝ご飯がある!え、幸せ!ありがとう春ちゃん!」

その顔を見て安堵した。一緒にいただきますをして食べ始めると彼女はほんとに美味しそうに食べてくれた。ご飯を食べてる彼女を写真に撮るとこっちを見て

「春ちゃんに撮られてるー!!」

と顔を隠した。可愛すぎる。私は彼女を写真に納めるという趣味を見つけてしまった。多分これは辞められない趣味だ。

「でも私はこっちのがいいかなー?」

と言いながら私の横に来てカメラを内カメにして写真を撮る。ぎこちない笑顔と慣れないピースなんかしてみる。何枚か撮ってると彼女と目が合う。ニコッと笑う彼女の笑顔が移り私も笑う。その瞬間も彼女は写真に納める。

「春ちゃんの笑顔ゲットー!」

そう言って嬉しそうに写真を確認する。この写真はいい。すごくいい。私のロック画面にしたい。

「この写真私にもくれない?ロック画面にしたいから」

付き合って2日だからこんなにラブラブなのか、このドキドキがずっと続けばいいなとか思ってると彼女はチャットアプリのQRコードを出してきた。

「交換しよ?そしたらいつでも話せるから」

彼女は少し照れた顔で微笑んだ。朝から尊すぎるよこの人はと思いつつQRコードを読み取る。私の友達欄に近江雪と表示される。彼女は素早くスマホを操作して私に見せる。

「私の彼女は可愛いって見せつけてみた!」

彼女のチャットアプリのホーム画が私とさっき撮った笑顔の写真だった。一言には“大事な人との写真“と書いてある。胸が温かい。私もすぐにホーム画と一言を変えた。ホーム画は同じだが一言は昨日の日付を。付き合えた大切な日。私はこれしか思いつかなかった。

「やっと恋人っぽいことできた!」

嬉しそうに笑う彼女と慣れないことして恥ずかしい私。でも幸せでいっぱいになった。あっという間に彼女の出勤の時間、彼女は支度もメイクも早い。慣れてる。彼女が出る時に一緒に出ようと思った。そして家を出る時間になる。彼女は玄関まで行き振り返る。

「そうだ!これ渡そうと思ってたんだ!」

そう言ってカードを渡す。カード?え、カード?私はカードと彼女を往復で見る。

「春ちゃんがもし家にいたくなかったり、私に会いたくなったら家に来ていいよ!って意味のうちのカードキー!」

うちのってこのお家の?カードキーなのか?!てかつまり合鍵ってことだよね?嬉しいけど、嬉しいけど

「こんな大事なもの受け取れないよ?!無くしたら大変だし!」

私はカードキーを彼女突き返すと彼女は少ししょぼんとしながら

「愛の印なんだけどなぁ、私の愛受け取ってくれないの?」

と子犬のような顔をする。あー、この子はホントになんて罪深いんだ。私はカードキーをしっかりと握り大事にしようと決めた。

「じゃあなにかお返しをさせて?なんでもいいからお返しをさせて?」

するとさっきまで子犬みたいだった彼女はこちらを見て

「またご飯を作って欲しい!」

と満面の笑みで言う彼女の頭を撫でた。この子を絶対に守ると決めた。パッと時計を見るともう出る時間になった。彼女は慌てて出ていく。広いところに一人になってとりあえず家事だけやろうと思いやってから家を出た。家に帰ると母が出迎えてくれた。母は心配そうに私に話しかける。

「春ちゃんなんで昨日帰ってこなかったの?花乃は好きな人と出かけるんだってって言ってたけど彼氏でもできたの?お母さん聞いてないんだけど。」

せっかく楽しい時間を過ごしてたのに、そう思い無視する。腕を掴まれ母はさらに言う。

「今までお見合い奨めてたのになんで今になって彼氏なんか作るのよ?お母さんは春ちゃんのことを思って色んな人を…」

さすがに限界だった。私だけでは無い。彼女を否定する言い方には我慢できなかった。

「お母さんは私のためじゃない。家のための相手を押し付けてるの!私と彼女の邪魔しないでよ!」

腕を振り払い自室に行く。初めて母に反抗した。母は追いかけることも無く、その場に立ちすくしてた。私は布団に突っ伏して寝てしまった。目を覚ますともう夕方で、スマホには彼女からの通知が来ていた。彼女に返信をしようと思った時扉をノックされる。

「春ちゃん、ちょっと話があるから降りてきてくれる?」

多分彼女のことだろう。私は返信をしないまま階段を降りてリビングに行く。そこには父と母、妹の花乃がいた。

「春、そこに座りなさい」

父が声を発するのは何年ぶりだろう。私は言われるまま座る。母から事情を聞いたのだろう。父が話し始める。

「お母さんから聞いた。彼女とはどういうことだ。」

聞かれると思ってた。でももう何も隠すつもりもない。

「…そのままの意味だよ。私はある女性と付き合ってる。ほんとに好きになれる人だった。その人を守りたいと思ってる」

父も母も黙ってる。自分の娘に彼女は信じたくないのだろう。すると花乃が割って話をする。

「お姉ちゃんさ。今実家でニートみたいな生活してるのにこれ以上パパとかママのこと失望させるの?いつまで逃げるつもりなの?」

花乃は嘲笑うように言う。逃げてるつもりなんかない。ほんとに彼女が好きで。彼女以上に思える人がいない。それも知らないで口を出す花乃にイライラしてしまう。

「あんたには関係ないじゃん。あんたがいるから私はいつも居心地が悪かった。私から全部奪ったんだよ。あんたは。それなのに私にそんなこと言うあんたこそ」

言い切る前に母から頬を叩かれる。そうだよね。花乃のことを言うといつも母は目くじらを立てる。私が何か言われても何も言わないのに。そんな母に心底呆れる。

「真由子!手を挙げるんじゃない!同じ娘だろ!」

真由子は私の母だ。母はいつも私にだけ怒る。きっと花乃の方が優秀だからだろう。でもこれで吹っ切れた。何もかも吹っ切れてしまった。叩かれたことで私の中に詰まってた家族の情も無くなった。私は自室に戻り簡単な荷物をまとめる。仕事道具のパソコン、スマホ、財布、書いて編集さんに出そうと思ってた小説。外は雨が降ってた。濡らしたくないからジップロックで諸々を入れて、階段を降りる。母は項垂(うなだ)れて泣いてる。父は私に気づくと近くに来て私にお金を渡す。

「少ないが、当分の生活費にしてくれ。俺がきっともっと差別するなって強く言えばこうはならなかった。ほんとにすまなかった。」

深々と頭を下げる父。この人は私に関心がなかったわけじゃない。きっとなんて言ったらいいのか分からなかったのだろう。結果私が(さげす)まれる生活をしてるからこの人も同じだけど私のやったことにも責任はある。

「お父さんごめんね。普通の子じゃなくて」

涙をこらえ私は家を出ていった。傘も持たず。行くところなんて彼女のところしかないのだが、彼女はすぐに受け入れてくれる。そして優しく抱きしめてくれる。分かってる。でも早く会いたいと思ってしまう。ずぶ濡れのまま、電車に乗り彼女の最寄りの駅に着く。1度行ったから分かる。彼女のマンションに着き、高すぎるマンションを見上げる。涙が雨なのか分からないけどとにかく涙が溢れて止まらなかった。カードキーはあるがとりあえず部屋番号を押しチャイムを鳴らす。しかし誰もいない。仕方ない、まだ18時。彼女は19時くらいに終わるだろうか?それまでここで待とうかな。その間も涙が止まらない。彼女のことを何も知らないのに勝手に言ってくる花乃にも妹しか愛してない母にも母の暴走を止めずに今の今まで無関心だった父にも心底腹立つ。でも何よりも泣いてる理由が父に頭を下げさせてしまったこと。それを後悔してる。父はちゃんと話を聞こうとしてくれてたのに。私がもっと大人になれば良かっただけなのに。彼女に、雪に会いたい。そんな気持ちから声にまで出てしまう。

「雪…会いたいよ…」

その場に座り込んで彼女の名前を呼ぶ。ふと嗅いだことのある香りがする。シトラス系の香りだ。顔を上げると優しい笑顔で彼女が立っていた。

「捨て猫みたいだなぁ、とりあえず家行こう?」

そう言って優しく手を引いてくれた。その手の温かさがじんわりと伝わり私の涙は止まらなかった。


次話

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