第4話
告白して告白されて。そんなすごい体験をした後、お家デートをすることになり今は2人で近くのスーパーで買い物中です。ぽんぽんとなんでも商品をカゴに入れる彼女が横にいる。しかもほとんどお酒のおつまみと惣菜ばかり。体に悪いし、何本飲むつもりだ?
「雪ちゃん?私作るからこんなにお惣菜いらないよ?」
入れてくる商品を棚に戻す私。私が作るという言葉にパァっと明るい笑みを見せる彼女は可愛い。
「何作ってくれるの?!」
まるで子犬のように周りをぐるぐるしたりスキップしたり鼻歌を歌ったり、少しずつ彼女の素を見れてる気がする。
「何が食べたい?雪ちゃんのリクエストに応えるよ?」
首を傾げながら聞くとうーんっと彼女は考えながら何がいいだろうと考えてる。私も考えながらぱっと思い浮かんだものを言ってく。
「定番はオムライスだよね?」
違うらしい。首を横に振る。
「煮物なら作り置きもできるよ?」
「食べたいから作り置きしといて欲しいけど、デートだからなぁ」
彼女のその言葉に少し照れた。デート。つまり恋人。私は彼女、近江雪の彼女になれた。ついさっき告白をして改めて告白された。とても嬉しい。
「わかった!」
彼女は手を叩き私に提案する。
「今日はレストランにしよう!予約するから!待ってて!」
ん?レストラン?レストランってファミレスかな?ファミレスなら洋風がいいなとか思ってる。でも今カゴにあるものは買っていかないと店の方に迷惑だな。とか考えて、私はレジに並び買い物を済ませる。
「あれ?これ買ったの?お金は出すよ?」
彼女はお金を出そうとするけど私は貰わなかった。年上の威厳というか、私は少しお姉さん感を出したかった。
「とりあえずゆきちゃんの家に買ったもの置いてレストラン行こう?」
と話を逸らすと少し膨れた彼女は私から荷物を取り手を出した。手を繋いで彼女の家に向かう。彼女は家に着くと私をクローゼットへ連れていく。荷物は玄関に置きっぱなしで。
「春ちゃんは細くて小さいからなぁ」
服を探りながら私が着れる服を探してる彼女を見て私はちんぷんかんぷんだった。ファミレスに行くのに着替えるのかな?なんて思ってた。彼女は服を手に取り私に渡した。着替えろってことかな?なんて思いながら何も疑わずに着替える。
「あ、あのこれって、、、」
着替えを終えてクローゼットから出ると彼女はすごい笑顔で
「春ちゃんめっちゃ可愛い!やっぱり私の目に狂いはなかった!後はアクセとかカバンとか選ぼ!」
それから着せ替え人形のようにイヤリングやカバンを選び、靴はヒール低めの靴にしてくれた。上着も貸してくれて全身彼女の匂いで溢れてる。
「雪ちゃん?あの、これってどうして?レストランって」
「ドレスコードとかあるからこれで大丈夫だとは思うけど?」
ドレスコード?最近のファミレスにはドレスコードとかあるの?最新のファミレスなのかな?とか思いながら彼女の着替えを待ってるとチャイムがなった。勝手に出てはいけないと思いつつモニターを見ると見知らぬ男性がいた。彼女の恋人?それは私だった!なんて1人ツッコミしてると着替えを終えた彼女が出てきて出た。
「黒野、早かったわね?今出るわ?」
この男の人は黒野さんと言うらしい。それよりも彼女のスーツ姿がかっこいい。私がドレスでなんで彼女がスーツなんだろ?なんて思いながら彼女は靴を履き、振り返って
「行こうか」
と手を出す。自然と腕を組むような形になり下まで降りると車と先程の黒野さんがいた。黒野さんは車のドアを開けて待っている。
「助かったわ、黒野」
「ありがとうございます」
乗る前に会釈をして車に乗ると丁寧にドアが閉められる。運転席に黒野さんが乗り車が走り出す。私は小声で彼女に聞いた。
「あの方は…?これからどこへ行くの…?」
バックミラー越しに黒野さんと目が合う。びっくりして彼女からパッと離れる。しかし彼女がバックミラーを睨むと黒野さんの視線がなくなった。
「私はそこに居られる雪お嬢様に仕えております黒野と申します。以後お見知り置きを。」
端的に言うことを終えるとまた静かに運転に集中する。この人は黒野さんと言って彼女の執事らしい。執事というもの自体初めて見た。30代くらいの人だが若く見える。でもなんとも言えない冷酷さが滲み出てて、この人がいたら誰も彼女に近づくことは無いと思える。考えても考えがまとまらず、結局お店に着いた時私の考えが甘い事を思い知った。
「ここって、oumiホテルじゃない?超高級ホテル、、、」
呆気に取られてると彼女は車から降り私に手を差し伸べる。
「行こう?とりあえず個室を取ってるからマナーとかは安心して?」
彼女の手を取り車から降りる。相変わらず彼女は私をくっつかせようとしてくるが人目もあって恥ずかしい。でも彼女は耳元で
「私の彼女でしょ?」
と囁きニコッと笑う。彼女のこういうとこがずるい。私は彼女に夢中になる。髪の毛を結んでて中性的なかっこよさがあり、周りの人も振り返るほどだ。なんて恋人なんて私幸せだな。なんて思ってる間に案内されてた。個室だ。完全に二人きりだが私の隣に彼女が座る。誰か来るのかな?なんて思ってたら2人の人が入ってきた。友達とは言えない年齢の人達で男の人と女の人。まさかとは思った。でもそのまさかだった。
「パパ、ママ。」
正真正銘この人が彼女の父親と母親だ。どことなく似ている気もする。でも空気は重い。その空間には私と彼女とその父と母。何が始まるのか。分からないけど。とにかくお父さんの顔が怖い。品定めされてるかのような目をしてる。
「あのね、私この米井春さんと今日からお付き合いさせてもらってる。私は彼女を幸せにしたいと思ってる。また日を改めて彼女の親御さんに挨拶に行くつもり。今日は認めて欲しくて呼んだ。」
まさかのカミングアウトだった。今日付き合って今日言うの?そういうものなの?え、でも付き合って1年とかで言うとかじゃないの?しかも同性だよ?そんな早く言うもの?なんて考えてると私の方に視線が来る。沈黙が1分くらい続いたが私は10分くらいに感じる。でもちゃんと挨拶はしないとと思うと口が勝手に動く。立ち上がった。
「雪さんと今日からお付き合いさせてもらってます。米井春と申します。今は売れない小説家ですがいつか自分の小説を本にしたいと思ってます。普段ライターとして活動しています。これから雪さんに寂しいなんて思わせない、恥ずかしくもないパートナーになれるよう努力致します。不束者ですがよろしくお願い致します!」
深く頭を下げる。私に出来ることなんて限りはあるけど今精一杯の気持ちを伝えることで、少しでも分かってもらいたかった。それまで何も発さなかったお父さんの方が口を開く
「…2人はどこで出会ったんだ…?」
「出会いは私の家の近くの居酒屋さんです。私は家に居場所がなくて、昔からお店に行くのですが、その日雪さんにあった日に一目惚れをしてすごく仲良くなれて、男の人に絡まれてしまって、それを助けてくれた雪さんかっこよさや優しさに思わず告白をしてしまいました。」
すると彼女も口を開ける。
「私は2年前、何もかもが嫌になった時、彼女は何か覚悟を決めてた顔をしてた。その姿に一目惚れした。でも改めて会うようになれて小さくて弱い彼女を守りたいと思った。本当は私から告白したかったのに、告白されちゃったから改めて私から告白してちゃんとOKももらった。」
「そうか…」
また沈黙が続く。それはそうだ。なんだか結婚の挨拶みたい。こんなに緊張することを付き合ったその日に挨拶って。でも彼女はちゃんと守りたいと言ってくれた。その言葉がとても嬉しかった。でもお互いに守っていきなたいな。とかそんなこと考えてるとその時彼女のお父さんは笑って言った。
「はっはっはっ!ごめんね?威圧的にしてしまって」
さっきの怖い人よりなんというか優しく笑顔が似合うお父さんだった。お母さんの方もくすくす笑い
「ごめんなさいね?この人ったら威厳のある父をしたかったらしいのよ?許してあげてくださいね?」
私の頭はちんぷんかんぷんだ。
「いや、雪から紹介したい人がいると言われてやっとかと思ったんだ!」
「そうね?ずっと待ってたものね?この2年」
どうやら彼女の両親は彼女の片想いも知っていてお見合いも全部断るならその人を世界一幸せにしなさいと言われてたらしい。それにお父さんもお母さんもとても気さくで優しい人だった。
「あ、えっと、その…」
私のキャパオーバーになりかけた時彼女が耳元で
「お疲れ様…私のために頑張ってくれてありがとね」
と言ってくれた。あぁ、なんだそいうことなのか。と理解した。たまにいたという。女の子でもこうして近寄ってきて社長令嬢だからお零れを貰おうとする奴が。だから品定めじゃないけど威厳と理解ない家庭風にしてるというものだった。
「元々ね、私たちは春さんのことは知ってたんだよ?でもその時は会社もまだまだ伸びる時期で雪に構ってあげられなかったんだ。でもその時に「大切にしたい人ができたからもうお見合いはしない」って言われてしまってね」
お父さんの方が話すのをひたすら聞いてると横の彼女がつんつん続いてくる。
「パパばっかりずるい。私も春ちゃんと話したい。」
ちょっと膨れてるのが可愛くてほっぺをツンとすると口から空気を抜きタコみたいな顔をして笑わせてくる
「タコみたい…ふふっ…かわいい…」
甘えてくる彼女に対して頭を撫でてあげると嬉しいのかまるで猫のようにスリスリしてくる。ほんとに可愛い。
「相思相愛見たいね?」
お母さんの声がして振り向くとお父さんもお母さんもニヤニヤしながら見つめて来てた。
「すみません!」
私が離れると彼女は拗ねたままだ。
「いいのよ?付き合いたてなんて沢山イチャイチャするもんなのよ?」
「そうだなー」
嬉しそうなご両親を見てほっとする。それまで怖いと思っていた彼女のお父さんに申し訳なくて俯く。
「恥ずかしがることでも申し訳ないことでもないぞ?娘の恋を応援しない親などいない。」
と私を励ましてくれた。とても立派なお父さんだ。
「私がずっと厳しくして多分娘はちゃんと自分の世界を広げていたようだな。私は今日春さんにお礼を言いたかったんだ。不束者な娘だが、これからもそばにいてやって欲しい」
困ったように笑う彼女の父。無理もない、付き合った相手が同性でしかもほとんど仕事をしてない私のような奴を娘が好きになったと聞いたら動揺するだろう。私は心からの言葉で答えた。
「もちろんです。雪さんを幸せにします!」
そこからはもう普通の食事会だった。堅苦しいマナーや作法もなければ普通の家族との食事。社長と言っても元は普通の人だからこういう風に食べるらしい。堅苦しいのは嫌いで好きに食べればいいじゃないかという彼女のお父さんは社長という職が向いてる偉大な人だった。食事も終わり彼女の父母とその場で解散して車で送ってもらってる時ふと思う。
「雪ちゃん2年前から私を知ってたの?」
「知ってたよ、それよりもっと前私が中1の時くらいから、本人に会うまで作品を見てた」
窓を眺める彼女の横顔はとても整っていて、夜の街よりも綺麗に輝いてた。彼女が中1だと私は中3くらいかな。なんで私をそんな前に知ってるの?
「なんでか気になる?」
にっと笑って彼女はこっちを見る。心の中全部見られてる気分だ。彼女は何もかも見透かしてる。ここ数日しか話してないのに全てを理解してる彼女の凄さに驚かされる
「春ちゃんの小説を読んだことがあるの。中1の時米井春ってちゃんと名前があった。それも残ってるんだよ?」
そう言って彼女は私が昔掲載してもらった小説家を発掘する雑誌を出てきた。ジップロックに乾燥剤を入れて保管してあった。そこには私が初めて小説に触れて小説家の世界に足を突っ込んだばかりの小説が載っていた。
「中3くらいだったよね、春ちゃんの小説は孤独と苦痛の気持ちがすごく伝わるものだった。でも力強く生きていく意味を見出した女の子の話。これ春ちゃんのことだよね?」
そう、私は自分の学校や家でのこと、行き場のない怒りや悲しみ、唯一私を受け入れてくれた祖父の存在。その日々を綴った小説だった。それが最優秀賞を取って掲載して貰えた。その時の小説を知ってる彼女は何者なのだろうか。
「実はね、あの時は春ちゃんの小説しか知らなかったの。でもその後高校大学と卒業して全部やめようと思ってた。でもたまたま入った居酒屋で春ちゃんを見て、春ちゃんが大将さんと話してることを聞いて、小説を書いた人だとわかった。」
その時から私を好きでいてくれてた。そんな事があったんだ。私はあの時も小説を描いた時も居場所がなくて苦しくて、ただひたすら生きるのに精一杯で、でも小説家として生きてく覚悟を決めたら胸が苦しくなくなって。でも家に帰れば親、妹から蔑まれて、いつか1人で立てるようになったら出ていく。そのつもりで。でも私の小説で彼女を救えた。彼女が私を見つけてくれた。私は涙が込み上げてきて彼女の手を握る。
「これから…私絶対有名小説家になるから。誰に何を言われても私が雪ちゃんの恋人だから。雪ちゃんを守るから。」
必死に伝えたい気持ちを言葉にして、小説家なのに口下手すぎて、語彙力も何もあったもんじゃない。
「私は春ちゃんを守るためにここにいるんだよ?あの日から気持ちは変わってないよ」
手を握り返す彼女の顔は清々しい顔をしてた。やっぱり彼女を好きになってよかった。彼女がいたから私の意欲がまして、小説にまた向き合うことが出来る。
「今日から恋人として私と春ちゃんの絆どんどん深めていこう!そして誰も文句の言えない恋人になろう!」
その言葉に救われて私はまた彼女への好きがましていった。
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