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春に溶ける雪  作者: 秋月
3/5

第3話

彼女と知り合って初めての日曜。今日私は彼女とお出かけの待ち合わせに来ていた。事の発端は私が彼女に恋心を自覚したあの日に彼女から「デートをしよう!」と言われたのが始まりである。


~遡ること数日前~

「休みの日も春ちゃんに会いたい」

唐突に彼女が言う。彼女は酔ってる。今飲んでるビールで5杯目。酔うと彼女は子供みたいに甘えてくる。仕事のこと、プライベートのことで彼女は自分を作り出してるようだった。そんな彼女を可愛いなと見つめてる時に言われた。

「休みたって春ちゃんみて癒されたいー!」

休みの日?私は年中休みみたいなものだから彼女の休みの日かな?え、彼女の休みに私一緒に過ごせるの?天国?

「私はいつでも大丈夫よ!」

うんうんと首を縦に振りながら前のめりに言う。休みも会いたい。私の欲が買ってしまった。

「どこか出かけたらその後私の家にくる?」

彼女の家。行ってみたい。どんな家に住んでるのか知りたい。私は目を輝かせて頷く。

「一人暮らしだし狭いかもだけど、それでもいいなら?」

行きたい。一人暮らしなら彼女がどんな生活をしてて、どんなものを飾ってるのか知りたい。

「私ご飯とか作れないから、何も無いけどね」

申し訳なさそうな彼女に対して私はピンと来てしまった。

「私、ご飯とか作れる!家事もできる!任せて!」

私はずっと家にいるから家事や炊事はある程度できるのと母から嫁に行くためと仕込まれている。その役が立つなんてと母に感謝しつつ何を作るか考えてた。


~そして今日~

待ち合わせは9時、現在8時32分。早く来すぎてしまった。どうしよう。なんか楽しみにしてるみたいで恥ずかしい。でも実際楽しみで昨日も夜中まで服をどうするか決めてた。ファッション雑誌を読んで流行りのヘアメイクやメイクアップもした。準備は万全。でも残りの時間どうしてよう。なんて考えてたら背後から声がした。彼女かと思ったが違った。男の人だ。

「今時間大丈夫?実はここ行きたいんだけど教えてくれない?」

どうやら道を聞かれてるらしい。その場所はすぐ近く。

「ここ真っ直ぐ行って2個目の信号右に曲がったら着きますよ」

私は道を丁寧に教えて、会釈をしてその場を離れようとすると腕を掴まれる。何が起きたのか一瞬分からなかった。掴まれてる腕を振り払おうとするが相手は離さない。

「は、離してください!」

「そこまで連れてってよ?一人で行くのは寂しいし」

男はにやにやしてさらに力を強める。痛い。怖い。私が痛みで「痛い…離して…」と小さく言う。でも聞きいれて貰えない。涙で目の前が歪む。すると目の前に人が立つ。その人影は男の腕を掴み私の腕から手を離させる。

「いてぇ!痛えよ!離せこのクソアマ!」

男がその人に殴りかかろうとする。でもその人はふっと避け男は倒れた。その人は雪ちゃんだった。彼女は私を覆うように立ち、

「嫌がってんだろ?私の連れに何か用か?」

いつもより冷酷さがでててかっこよかった。

「道聞いてただけだろ?腕痛てぇな、治療費寄越せや!」

男が言うと、彼女は男を見上げ

「へぇ、さっきのじゃ足りなかった?今度は折れるくらい力込めてやるよ?」

と腕を掴んで力を込めた。いつもの彼女より男らしくかっこいい彼女の背中を見ていた。男は逃げるようにどこかへ行った。振り返る彼女はいつもの彼女で私を見て抱きしめてくれた。

「遅くなってごめんね!怖かったよね!大丈夫!私がいるよ!」

優しく抱きしめてくれて頭を撫でてくれる彼女に抱きつき安心から涙が溢れてきた。涙が止まるまで彼女は抱きしめてくれてた。泣き止むと彼女は腕を掴んで

「赤くなってる。ちょっと来て!」

と優しく手を握ってくれた。やっぱり彼女のことが好きだなと思えた。私は引かれるがまま歩き1つのマンションに着いた。私が住むことは無いであろうタワーマンション。そこの最上階。

「ここは…?」

彼女に聞くと私の方を見てニコッと笑いながら

「私の家!」

と言う。好きな人の家に来てしまった。適当に座っててとソファーに座ったがなんかもじもじしてしまう。彼女は手当のためになにか冷やせるものと救急箱を持ってきた。

「あざにならないといいんだけど」

といいながら私の腕に冷えピタを貼りその上から包帯をまく。ただ腕を強く掴まれただけなのにこんなに大袈裟な手当。でも私の足元に座る彼女を見ながらやっぱりこの人と一緒にいたい。好きだなと思った。そしてそれが口に出てしまった。

「…すき」

彼女がこっちを見た。見つめられるほどに耳まで赤くなる。でも伝えたい。気持ちを知って欲しい。

「雪ちゃんが好きです。初めて会った日から、あの日から雪ちゃんのことばっかり考えてしまってます。」

俯いて振られることが分かってる。だって相手は女の子。同性からこんな気持ちを向けられたら気持ち悪いに決まってる。もう会えないかもしれない。それだけはやだ。でも伝えたかった。聞いて欲しかった。

「…」

沈黙が続く。耐えきれずに私が言う。

「ご、ごめんね!雪ちゃんは私の気持ちなんか気持ち悪いよね!ほんとにごめ」

この言葉を遮るように彼女が言った。

「気持ち悪くなんかない!私、すごく嬉しくて何も言えなくて。」

彼女は私の手を握りながらゆっくりと話し始めた。

「私ね、春ちゃんに会うのはあれが初めてじゃないの。2年前かな?なにもかも嫌になった時に春ちゃんに会ってるの。その時もあの居酒屋で私は話しかけられなかったけど、あの時の気持ちがずっと残ってて引きずってた。」

初めて知った。2年前。私にとって転機が訪れた日。小説家として何も出来ず、書いても却下される日々が続いた時、ライターとして活動し始めた頃。

「その時に見た春ちゃんはなにか覚悟を決めた顔をしてレモンサワー飲んでて、かっこいいと思った、あの時から春ちゃんのこと好きだった。だからお父さんがお見合い持ってきても全部断ってた。春ちゃんに告白したかったから」

私は涙が溢れてきた。そんな前から私のことを知ってくれてた。私はこの間会ったばかりだと思ってた。でも彼女は私を2年も前から知ってくれていた。嬉しくて涙が止まらない。

「改めて私から言わせて。私は春ちゃんが好きです。春ちゃんの恋人にしてくれませんか?」

嬉しくて、初めての恋が実った。同じ性別の綺麗で強い彼女が私に真っ直ぐに想いを伝えてくれてる。その事がとても幸せで言葉が出てこない。

「返事、聞いてもいいかな?」

泣く私の涙を指で拭い私に優しく問いかけてくれる。

「よろしく…お願いします…グズッ」

彼女は安心したように私とおでこを合わせる。

「やっと伝えられた。2年も片想いしてたんだから、私春ちゃんを幸せにする。私のしつこさ舐めないでよね?」

そこからは涙でせっかくのメイクもぐしゃぐしゃになっちゃって彼女にメイク落としで落としてもらったりしてお出かけはデートになった。初めての恋人は女の子でしかもとても美人の高嶺の花。この先何があっても負けない。そう心に決めた。


次話

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