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春に溶ける雪  作者: 秋月
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第1話

第1話


運命なんて信じない。

運命って浮かれた男女が口にする戯言に過ぎないと私は思ってる。

運命とか必然ひつぜんとかそんなものに頼らないと生きてけない承認欲求の塊みたいな奴らが使う言葉。

さっきまでの私はそう思ってた。


今、その言葉が頭の中を埋めつくしてる。

これが運命の出会いなんだと、、、



私は米井春(よねいはる)。普段は売れない小説家で今はレビューを書いたりして小遣いを稼いでる25歳。恋人いない歴=年齢で恋なんかしたことないのによく恋愛小説を書く。

「春ちゃーん?ちょっと来てー?」

母(の声がした。部屋から出て階段を下りるとウキウキとした母がそこにいた。

「春ちゃんももう25歳じゃない?お見合いとかどうかしら?」

そう言って私に相手の写真を見せる。

「年齢は5歳上だけど大手企業に務めてて誠実で優しい方なのよ?お父さんの取引先の方らしいのよ!」

母はこうして私に結婚を急かす。これで今月3回目のお見合いの話だった。もううんざり。

「お母さん、私結婚はしたくないよ、するとしてもちゃんと私から好きになった人がいいよ。お相手に失礼だし」

毎回こうやって言うが本心は恋愛なんてしたことない私に結婚生活ができるとは思えない。怪訝な顔をした母は少し口調が強くなる。

「春ちゃんはもうそんなこと言ってられないじゃない!あと5年で三十路なのよ?女ってのはね結婚してこそなのよ?!」

母は結婚が女の幸せだと疑わない。そういう人もいるだろうが私は違う。でも理解はして貰えないのだ。それに結婚する気のない人間が見合いをしたって相手に失礼すぎると思う。横から野次を入れるように妹の花乃(はなの)

「恋愛したことないのに恋愛小説なんか書いて、現実見なよ?お姉ちゃんなんか売れ残るんだし、早めに結婚して家から出てってくれないと嫌なんだけど笑」

と笑いながら私に言った。花乃は私が家に引きこもってるのが面白くない。昔から花乃は私を毛嫌いしていて、何かしら私のせいにしてきた。花乃が中学の時に振られたのも、高校受験に1回で合格できなかったのも、母や父の機嫌が悪いのもすべて私が地味で引きこもりで人に紹介するのも恥ずかしい姉だかららしい。こんなことばかり言われて嫌にもなる。私は行きつけの居酒屋でお酒を飲むのが楽しみになっていた。その日も私はお酒を飲んでいた。

「春ちゃんまたお母さんと喧嘩でもしたの?」

ここの大将とは私が5歳の時からの知り合いだ。大将はいつも生ビールと焼き鳥を串から外したのを出してくれる。

「お母さんは私より花乃の方が可愛いんだよ。毎日毎日結婚、結婚って、、、」

私にとって結婚はホントにしたい相手とするもので、知らない相手とさぁ付き合いなさい、なんてほんとに無理。

「春ちゃん飲み過ぎだよ、、、」

大将は少し心配そうに水を渡す。そんなに酔ってないのにななんて思いながらコップを受け取ると手からコップが滑り落ち服が濡れてしまった。

「あー、びしょ濡れだぁ、、、」

ほんと最悪と思いながら立ち上がると隣の席の人に少しぶつかった。

「あ!すみま…せん…」

隣に座ってたのはスーツの髪が腰くらいまであるすらっとした人で顔は見えなかったが香水のいい匂いがした。シトラス系のさっぱりとした匂い。

「大丈夫?」

こちらに目を向け彼女は私の濡れてしまった衣服を拭いてくれた。綺麗な目をしていて、色白でほんのり頬がピンクでほんとに綺麗な人だった。

「あ…えっと…」

気づくと私は顔を赤らめていた。直視できない。美しすぎる。同じ人間なの?

「顔が赤いのは、お酒のせい?それとも私のせい?」

こちらを見てニコッと笑う彼女は美しいのにまるで少年のようなだった。その顔もまたいい、とても綺麗だ。

「あの…その…貴女のせいって言ったら…」

もじもじしながら精一杯の語彙力を絞り彼女にその言葉を伝えると彼女は少年のような笑顔から満面の笑みに変わり

「私のせいかー!仕方ないから奢ってあげるからチャラにしてね!」

と嬉しそうな顔をして生ビールを私に渡してきた。そのビールはいつも飲むビールより甘く感じた。苦くてホップの香りが苦手だったのに飲めた。

「私、近江雪(おうみゆき)。あなたは?」

いきなりの自己紹介が始まった。コミュ力のない私は何を言えばいいか分からず畏まってしまった。

「わ、私は…米井 春です!25歳独身で実家暮らしです!!」

彼女はきょとんとしていた。私もハッとなりまた顔が熱くなる。絶対キモイとか思われた。どうしよう。そんな私の考えとは裏腹に彼女はお腹を抱え笑った

「あはははっ!!ごめん!でも待って…ふっ…んふふふ…」

今度は私の方がきょとんとなった。こんなに笑った顔も綺麗なのに涙が出るくらいお腹を抱えて笑う美人なんて見たことない。でも彼女の笑いが移り私も笑ってしまった。

「ぷっ…あはは!!畏まりすぎでしたね?雪さんごめんなさい…ふふっ」

「もっと楽に話していーよー!てか私の2個上なんだし!!私は雪ちゃんって呼んでよ?私も春ちゃんって呼ぶからさ!!」

「わかりました!雪ちゃんですね?!」

「あと敬語禁止ね!!年下がタメ語で年上敬語とか意味わからんし!!」

気さくな彼女はとても笑っていて、それがとても嬉しかった。彼女はとても話上手で話すのが苦手な私に優しく質問をしてくれた。

「春ちゃんはここによく来るの?」

「ここのお店昔から来てて、家にいたくない時はここに来てお酒飲んで夜中に帰るかな」

初めて人にこんな話をしてる。彼女が優しいから、そんな彼女に目を向けると少し考え込んで私の方を見た。じっと見つめられ顔が熱くなるのを感じ目を逸らしてからまた話し始める。

「雪ちゃんはここにはよく来るの…かな?」

「私は今日が初めてだけどお店入って良かったと思ってるよ」

こちらを見てまた少年のような笑みを見せた。私も今日来てよかったと思ってる。でもそれを告げるのは照れくさくて言葉を発することを躊躇ってしまった。

「どーしたの?」

彼女に見透かされてるように感じて、少しもじもじしてしまったが、思い切って言葉に出す。

「わ、私も、き、今日来て良かった…と思ってる…ます。。。」

変な言葉になってしまった。きっと惹かれてしまったかもしれない。そう思うと彼女を見れない。

「あははっ!それなら良かったー!」

彼女は今日1番の笑顔を見せてくれた。その顔が脳裏に焼き付く。鮮明に。くだらない話をしてるうちに彼女との時間は早く、気づけばもう、23時になろうとしていた。彼女が自分の身に付けてる腕時計に目を向ける。

「あ、やば。こんな時間だ。春ちゃん明日はここにいる?」

彼女はコートを羽織

はお

り、帰り支度をしている。

「基本的にここにいるけど、、、」

コートを羽織

はお

る姿がまるで蝶の様でとても美しい。

「私明日もここに来るつもり!春ちゃんに会いたいから!」

彼女はこちらを見てまたニコッと笑う。でももし明日会えなかったら?彼女が残業で来れなかったら?会えないし、話せないと考えるとパッと浮かんだ言葉をそのまま何も考えず発していた。

「連絡先交換してくれませんか!」

今日会ったばかりで何言ってんの私。絶対気持ち悪い奴じゃん私。最悪。時を戻して欲しい。。。そんなことを考えてる私を見て彼女は私の両頬を掴み顔を合わせた。

「いいに決まってるじゃん!友達でしょ!」

その言葉に胸を針で刺されたような感じがした。でも彼女が真っ直ぐ目を見てるので叫び出したい。顔に心臓があるくらいドキドキして、頭がぼーっとする。酔ってるのかな?

「私の連絡先教えるからスマホ出して?」

彼女はスマホを出すと私に携帯を渡す。あ、LAIN(チャットアプリ)のやり方知らないのかな?なんて思いながら自分のスマホを出す。出来ないなら私がやってあげようと思いLAINを開くと彼女は

「LAINじゃなくて電話番号教える!声聞きたいし♡」

と耳元で言った。耳がこそばゆくてでも甘く高い声が伝わる。私は頷くしか出来なかった。連絡先を交換した後、バイバイと手を振り帰ってった。私はそのまま椅子に座って大きく息を吐いた。

「コミュ力高ぇ、、、」

その日は飲む気力もなくそのまま家に帰った。帰り際大将が何か言ってたが、今私の頭の中は彼女、近江雪のことでいっぱいだった。笑った顔。意地悪な顔。その顔が頭を独占してる。この先の事とかどうでもいいから今は彼女に会いたい。そんなことばかり考えていた。でもすぐ彼女からの連絡が来るのを予想すらしてなかった私は家に帰りいつもみたいに布団に入って、今日のことを思い出しながら彼女の連絡先を見つめて口から溢れるように

「明日…また…会える……かな…」

と呟き眠りについた。


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