初めて聞いた本音は、アルコールの香りがした
「おぉいGドラゴン! なんでぇ私の卒業ライブにこなぁかったんでぇすか!」
完成したお手本のような酔っ払いが、所謂ダル絡みをし始めたものだから、俺は大きくため息を漏らした。
「その名で呼ぶな。それに卒業ライブは仕事と被ったんだよ」
二年前の夏ごろだったっけな、確か。誘われたの。俺が社会人二年目のころだった。
「私はぁ、Gドラゴンが来てくれると思ってたぁのしみにしてたんだよぅ」
「それは光栄だけどさ。それでも、いろんなファンは来てくれたんだろ?」
「…………いなぁい」
酔っぱらってぐっちゃぐちゃの顔だったけれど、どこか、暗い顔、悲しげな表情に見えた。
「はぁ?」
「私のファンなんてぇ、Gドラゴン以外にはいなぁいのだ。みんなほかのめんばぁがすきで、そのおまけなのら」
「そんなことはないと思うよ」
「そなことある! だからGドラゴンが来なくなって心がぽっきーんってねぇ。でぇへへへ」
意味不明なジェスチャーとともに、そう語った夕歌。
いや、さすがに誇張した話だ。
確かに夕歌は、グループの中での人気は下から一番か二番程度だった。けど、それでもグループ自体のファンはそれなりにいたし、夕歌を好きで来ていたやつも、少なからずはいるはず。
「飲みすぎて変なこと言ってんだな。ほら、水飲め」
「まだまだ飲んでなーい! 結局みんな嘘つきなのらー。私を推してるとか言ってほかのぐるーぷ見に行ったり、ほかの子推したりしてたのれす! 私なぁんかすこしも魅力がなぁいんれす!」
「そりゃ、アイドルオタクってそういう生き物だからな」
本当に単体を推しているファンなんてごく少数で、いくつものグループを並行して追っかける奴が大半だろう。
推しているアイドルだって四人五人いても不思議じゃない。それが地下アイドルオタクの世界だ。と、大学時代に聞いた。
「私は、アイドルになりたかったのれす……」
「アイドル、やってたじゃないか」
何を言っているんだこいつは。
「もっとずっと、みんなにえがおとしあわせをとどける、アイドルに……すぅ」
そう言って夕歌は、まるでこと切れたかのように動かなくなった。
「寝やがった……」
いや予想はしていた。だからそこまで驚かないが、こんなにしっかり酔いつぶれるとは思わなかった。
何か嫌なことでもあったのかってくらい、やけ酒みたいな飲み方だったしなぁ……。
「ほら、寝るな。寝るなら帰るぞ」
「すぅ……すぅ……」
「あーぁ、だめだこりゃ。すみませーん、お会計お願いします」
早急に諦めモードに入った俺は、とりあえずお会計、そして本日二度目の、酔っ払いおんぶモードへと切り替わった。
「起きる気配、ねーな。電車乗せて大丈夫か?」
なんて心配をしてみるが、かといってお店に放置しておくわけにもいかない。しばらくすれば起きるだろう。
それより、
「アイドルになりたかった、か……」
あの言葉に、どんな真意が含まれていたのかは、定かではない。酔っ払った勢いでの適当な発言であると受け止めてしまうのが妥当なところだろう。
けれど、そう語った夕歌の表情が、そう考えさせるのを許さなかった。
もっと笑顔と幸せを届けるアイドルに……か。
俺には笑顔と幸せ、届いていたけどな。まぁ、それだけじゃ足りないんだろう
俺の為だけにアイドルをやっていたわけじゃないだろう。
もっともっとたくさんのファンに囲まれて、幸せな空間を作りたかった、そんな意味合いなんだろう。
「地下アイドルの中じゃ、そこそこ集客もあったような気がするけど、夕歌にとっちゃ物足りなかったのかな。いや、それでも、一人でもファンがいれば、一生懸命やる子だったはず。じゃあなんで、そんな夢だったアイドル、やめちまったんだよ」
こうして再会出来て、なんなら職場の後輩で。そうして流れたこの数日間、俺は幸せといって過言ではなかった。
けれど俺の背中で寝息を立てる夕歌は、そんな俺の問いに、答えてくれやしなかった。




