技能∶図書館
展開に盛り上がる部分が存在しません。
それでも良いと思って下さる方ならどうぞ。
「…………はぁ」
盛大なため息を吐いたのは、私。
この世界には“技能”と言うものが有ります。
実際にはもっと仰々しい名前があって、それが正式な名前なのですが誰もそれを使いません。
成人の儀式を行うことにより、完全ランダムで一人に一つ得られる特別な技能。
けっこう様々な種類が存在していて、それらを使うと世界の法則を無視した結果が得られると評判の、頭がおかしい能力です。
有名なものとして【芸術∶○○】や【製作∶○○】があります。
これらは○○に書かれているものっぽければなんでも出来るそうで。
例えば【製作∶ふっくらパン】なら無からふっくらパンを生み出すことも出来ますし、物や生き物をふっくらパンに変える事も出来るとか。
【芸術∶爆発】なら爆発物を無から生み出したり、物や生き物を爆発物に変える事も、爆発物に変えず直接爆発させたりも可能だって。
大ハズレとされる有名な技能に【(文字化けして見えない)神話】と言うのが有って、それを得た人は発狂しやすくなるって本当に恐い技能。
でもその技能で得たこの世のものとは思えない知識は、世界の技術の発展に貢献しているとかなんとか。
…………なのでそう言った自由すぎる技能持ちや大ハズレ技能持ちは、技能が発覚した時点で厳しく管理されます。
……私?
私はありきたりな技能ですよ。
【図書館】
この技能は沢山の本や書類から、欲しい情報を手許に引き寄せる技能。
使用条件は、本が詰まった本棚がある部屋や図書館なんかの沢山の本を扱う建物の中、書類等の山が目の前にある時。
あの本を探したい、あの情報を集めたい。 と思って技能の使用を意識すると、成功すれば手許に本や欲しい情報が書いてある紙や手帳が現れるんです。
大成功した場合は、ちょっと良いオマケが付いてきたりします。
もちろん失敗する時もあって、何も手許に現れないのなら良い方で、大失敗をすると足が滑ってほんとに頭をぶつけたり本等の山が崩れてきたり、知ってはいけないおぞましいモノが手許に来てしまったり。
それで【図書館】は一度使うとしばらく間隔を空けないと再度使えない弱点があります。
そんなだから【図書館】持ちは図書館の司書として大量に雇われて、こき使われたりしています。
もちろん私もその司書達の一人で、お客様から○○の本は無いか? と尋ねられるたびに【図書館】を使える時は使い、使ったばかりなら仕事仲間へ放り投げています。
貴族の方で【図書館】持ちは、王城の事務として雇われる事が多いそうですが。
そんな話が世間一般に知られる程度には、沢山の人が持っている技能です。
この【図書館】は完全ランダムと言っても、かなり高い率で得られる技能です。
そう。 得られる確率が違うんですよね。
あくまでも儀式を行う人から見た主観・体感によるものみたいですけどね。
そんなよくある技能を持った、十把一絡げの容姿と頭のよく居る一般人の私は、この世界ではよくある人生を送っています。
まあよくある人生の中でも、世界に蔓延る魔物と戦える技能持ちと比べれば、まだマシな人生なんですけどね。
〜〜〜〜〜〜
それである日、図書館がドロボウに盗みに入られました。
盗まれた物は、ちょっとした魔法書。
魔法技能を得られた人宛てに書いた、魔法の使い方の入門書。
かなりの数が【印刷】技能持ちによって複製されている、それほどお高い本ではありません。
が、本を盗まれるというのは司書として耐え難い屈辱であり、沢山の人に本を読んでもらう為の施設である図書館の価値を否定する行為です。
なので、犯人を特定するための手がかり探しが始まりました。
こう言うのに【目星】技能持ちが居ると助かるのですが、図書館にはいないので、外部に依頼する必要があります。
依頼ですので、お金がかかって余計な出費が発生してしまいます。 なのでまずは私達で調べられる所は調べてからとなりました。
そんなの無理に決まってるじゃないですか。
【目星】持ちは技能を使うだけで、技能を使うときに考えていた事に関係するナニカ……怪しい場所や気になる所を見抜ける便利技能のものまねなんて、出来る気がしません。
なのでもう、自棄っぱちですよ。
沢山の情報に埋もれている現状を、本を乱雑に並べられた本棚と認識して、使ってやりましたよ【図書館】を。
犯人に関係する情報が欲しいって。
そうしたらなんか大成功の手応えがして……。
「うわっ……」
犯人に関係があると思われるモノが手許にズラリ。
侵入する時と別人になりすます変装セット、使い捨ての盗みの小道具等等。
一番ヤバいと思ったのは、犯人の物と思われる自叙伝の本と、図書館利用時の本人確認に使う図書館カード。
まるで自己紹介しているみたいに情報が丸裸でした。
【図書館】ってこんな使い方もあったんだなと興味深さ半分、こんな簡単に人物特定できるのかと恐さ半分な気持ちです。
この発見により【図書館】の技能は見直され……なかった。
技能の応用手段として認知はされても、誰も積極的には使おうとしなかった。
なぜならば、図書館で【図書館】の技能を使うデメリットを【図書館】持ちの司書達が理解しているから。
極めて稀に、図書館に所蔵した覚えのない本が【図書館】で手許に現れる機会があるから。
その本はいつの間にかどこかの本棚に紛れ込み、手に取った者に深淵からの知識と狂気を与える、極めて危険なモノであると司書達の間で知れ渡っているから。
それは大成功か大失敗の時に、突然現れることがある。
それを手に取ってしまい、発狂し、人間としての人生が終わってしまった司書が沢山いるから。
それも司書が沢山雇われている理由の内なのだから。
〜〜〜〜〜〜
最近クトゥルフTRPGのリプレイ動画をよく見てて、それの所為でこんなネタばかり出てきます。