大晦日のお客様・1
年末に向けて、教会は忙しい。そもそも誰にとっても、年末は忙しいものではあるけれど。
一年の最後の日は、町の人々がお祈りに訪れるため、礼拝堂の大扉は夜通し開けておく。
当然のようにシスターリリーをはじめとして、教会で暮らす子供のうち、年長のルナとロージーは交代で夜通し蝋燭の灯りの番をすることになる。さすがに真夜中過ぎての訪問者は少ないが、火を絶やすわけにはいかない。
「何とかもう少し楽にならないものでしょうか」と例年の如くシスターリリーは嘆くが、今年もこれといった妙案はない。
昨年と同じ事を同じ様にすると決まり、これも含めて年末のお約束のようなものだと、ルナはつい笑ってしまった。
現在、ルナとロージーはフォーチュンカード作りに追われている。「今年最後のフォーチュンカード」「今年最初のフォーチュンカード」とカードを引いていく方々の為に、この時期はいつもより明るく希望を持てる言葉を多く選んでいる。
町の人々の笑顔を思い浮かべながら、ルナは装飾文字を書く手を休めず、ロージーはいつもの二割増しの速さで彩色した。
二人の作業する食堂の暖炉の上には、方々から届いた新年を祝うカードを飾り、届けられた贈り物も飾り付けた。
レオンからは新品の毛布が人数分届けられ、シスターリリーが深く感謝していた。毛布は新年を待たずにありがたく使っている。
「年末には行けそうもなくて。ごめんね」とハリーからの贈り物は、雑貨屋のモリスさんが代わりに届けてくれた。ルナとロージーには瓶詰めのハニーキャンディ。他の子供達にはずっしりと重い菓子の詰め合わせだった。
ハリーからの贈り物では、ロージーに申し訳の無いことをした。
ルナは暖炉の上のキャンディを見るたびについ笑いそうになる。出来るだけそちらを見ないようにして作業していた。思い出し笑いをすれば、敏感に理由を察知したロージーがまたブウブウと文句を言い始めるから。
ハリーの贈り物は、とても綺麗な紙に素敵なリボン―――ルナは髪を結ぶのに使ってもいいと思ったくらい―――が掛けられていた。
モリスさんが帰ると、ロージーはしていた仕事を放り出し期待に目を耀かせながら、リボンをほどき始めた。鼻歌まで聴こえるようだ。
急にピタリとロージーの動きが止まった。無言で、微動だにしない。
「どうかした? ロージー」
「ルナ……信じられないわ……」
不思議に思い声をかけたルナに答えるロージーの背中は、小刻みに震えている。
そんなに感激するほどだった? と思うルナに向かって、ロージーが手に握る瓶を勢いよく突き出した。
「キャンディよ? これ。このすっごく期待させる包装で、中身がキャンディってあり得る!?」
「ハリーさんからなら、公都で流行りのお洒落な物だと思うわよね? 誰だって。期待するわよね? 女の子だったらみんな。それが…それが……こんな子供扱いってどうなの!? 信じられないっ」
ロージーの目は、もはや据わっている。
ルナは慰めの言葉を口にしつつ、焦りを隠した。……言えない。絶対に言えない。
プレゼントは何がいいかとハリーに手紙で聞かれ、この辺りにはない蜂蜜キャンディが欲しいとねだったのは、何を隠そうルナなのだ。
ロージーを懸命になだめつつ、次には必ずロージーの喜びそうな流行り物をねだろうと心に決める。
ルナの隠し事は、この日またひとつ増えた。
大晦日の夜、早い時間にセドリックが先代伯と共に礼拝に訪れた。
ルナとはおよそ一ヶ月ぶりの再会だ。まだ混み合う前で、礼拝堂に人は少ない。今日は領主館に公都から伯爵夫妻も来て皆が集まるので、早々に戻るのだと云う。
「ご機嫌よう、助手君」
爽やかな笑顔をセドリックがルナに向ける。
「おかわりがなくて何よりです、若君」
丁寧に頭を下げながら、ルナも小さく笑みを返した。
「今日はゆっくり話せないけど」
言いながら、セドリックがちらりと先代伯を見る。セドリックの祖父は、シスターと年末の挨拶をしているところだ。
「また近々、話す機会もあるから。ヘザーにも会えるよ。ヘザーも君に会えるのを、とても楽しみにしているんだ。だから―――断らないで」
「何を」と疑問に思うルナに、セドリックは自分の唇に人差し指を当てて質問を封じた。
「じゃあ、来年また会おう。来る年が君にとって良き年となりますように」
「会えて良かった」と、ルナの指先を軽く握って挨拶を済ますと、笑みを頬に残したまま踵を返して先代伯の元へと足早に去って行く。
ルナは軽く頭を下げて、セドリックを見送った。
その後は、途切れることなく町の人々が礼拝に訪れ、フォーチュンカードを引いていく。新年向けの明るい言葉を多くしたそれは、人々の寄付を増やした。
「ルナ」
夜も更けて、人波が切れた頃にシスターが名を呼んだ。
「ロージーは先ほど休ませたから、あなたも少し眠りなさい。また早朝に私と代わってくださいな」
シスターはお歳の割に夜に強く疲れ知らずだと、ルナはいつも感心する。それを言うと「あなたはまだ子供ですから」と笑われるのだけれど。
ルナは教壇の脇のドアから隣の小部屋へ入り、硬い木のベンチに座って大きな毛布にくるまった。
自分の部屋では寝過ごしてしまいそうで、ここ数年大晦日の夜はここだ。眠っていてもずっと肌寒いと感じつつ、熟睡はできずにとろとろと微睡む。
思いがけなく、ふわりと身体が温かくなった。
シスターがもう一枚上から掛けてくれたらしい。
目を開けることも億劫で、そのまま眠りに落ちようとしていると―――呼ばれた。




