永遠に心を奪う輝き・6
手を繋いでいたはずなのに「読み」終わる頃にはリリーはオーツにもたれ掛かる姿勢になっていた。
楽にしすぎて少しウトウトしてしまったかもしれない。
「宝石商がここまで話したのは、君が今後いいお客になると考えたからだね」
背中をポンポンとしてオーツが言う。宝石商は淑女相手の信用商売、屋敷の奥で見聞きしたことは他言しないのが鉄則。それを破って忠告をくれたことへの感想だ。
「ケインズ」の名を出した後のリリーの様子を見て、宝石商は「ご存知でしたか」と落胆ではなくホッとした表情をした。
「私は、ね。でも侯爵はご存知ないの。だから、教えてくださるのが今日で良かった」
「差し出がましい事を申しました。平にお許しを願います」
許すなんて、むしろ。
「いいえ、お礼を言いたいくらいよ。私は平民階級出身だから、淑女のお付き合いにはうとくて。何も知らずに飛び込んでは失礼になると思うの。他にも見せて頂きたい石はあるし、もっとお話を伺いたいわ」
にっこりとしてみせると、宝石商から感じの良い笑みが返った。
「ありがとうございます。お役に立てるとも限りませんが、どうぞご贔屓賜りますようお願い申し上げます」
オーツ先生と相談し、カナリヤブローチもピンクダイヤも足さないことになった。
「ハート形も見てみたいね」
「でしょう」
「エドモンド様が触れたと思うと」
先生も同じねと思うリリーに、オーツが意外な返事をしてリリーの頭を撫でる。先生はよく子供にするように撫で撫でしてくれるけれど、それは坊ちゃまが私を触っていたと考えての事ではないか、と思うのはこんな時。
大きくなった今、おじ様もしてくれなくなったので、たまにされると嬉しい。よって理由は問わない。
「披露パーティーの前にブローチを頂きに来ます」
「きっちりと仕上げておくよ」
ひとりグレイ邸に戻る馬車のなかで思い出す。
あの宝石商は石の声が聞こえるらしい。顧客の顔を思い浮かべながら出掛ける準備をしていると、石が「連れて行って」と言うのだと。
依頼された物と全く違っても、たいてい「連れて行け」と言った石が売れる。ピンクダイヤの声を聞いたのはあの日が初めて。さすがに半信半疑ながら持ってきたら、相手がリリーだったというわけだ。
宝石商として素晴らしい能力だと思うが、逆か。石と通じ合う力をお持ちだから宝石商になったのだろう。
「他にも奥様にお似合いになる石を、多数取り揃えております」
商売人らしい微笑には、花売りで鍛えた微笑で対応。
「それは侯爵におっしゃった方が話が早いんじゃないかしら。私よりお金持ちよ」
ルナの石選びは日を改めることにした。明日にはルナのドレスが届く。夢見るようなピンク色のお姫様が着るくらい素敵なドレスのはずだ。
忘れていることはないかと、馬車の天井を睨みながら考える。
「仕掛けは上々、必要なのはあなたの願いだけ。うまくいかないわけがない」
リリーの口をついて出たのは、オーツ先生の懐かしいおまじないだった。
宝石商がリリーに話さなかった記憶
***
満足のゆく石が見つかったせいか、エドモンド殿下の表情が和らいだ。
「アレをこちらの都合で手放すのは二度目だ。一度目は再会を喜び勢いよく飛びついてくれた。しかし二度ともなればそうはいくまい。私が信用を無くしたのは確かだ」
相づちを求められているようには感じない。
「キラキラとした美しい物が好きなのだ。これでおびき寄せて捕獲するつもりだが……すっかり拗ねてしまい欲しがらなかったら、次の石を探さねばな」
「その節にも、ぜひお手伝いさせてくださいませ」
可とも不可とも言わず、エドモンドはピンクダイヤを光にかざした。
「曇りはすべて取り除く必要がある」
公国一とうたわれる貴公子は冷えた眼差しで石を見据えた。




