両家初顔合わせ・3
「招待客のうちにオーツ先生のお名前はなかったようですが」
「『気の張る席は遠慮したい』って」
ジャスパーがグラスを口に運ぶのに、リリーも何となくタイミングを合わせる。それが二・三度続き。
「アイア。ご存知とは思いますが、不敬罪はなくなっても――」
「大公家に異能を使うのは死罪」
「セレスト一族に異能を使うのは死罪」
後半は声が揃った。むろん例外はいくつもあるが、一言でまとめるとこうなる。
不敬罪については「『敬え』と一方的に押しつけて従わなければ処罰するというのは、無意味では? それで尊敬の念が高まるとは思えない」と坊ちゃまが法改正に触れた。
「セレスト家以外に反対する者もない」と独り言のように添えたので、議会が静まり返ったと聞く。
そもそもここ何十年も有名無実化していた罪名だ。
それとは別に。セレスト一族といえども全員が異能持ちではない。感受性が弱く、精神系の術を使われても気が付かない方もいらっしゃる。よって、セレスト一族に対し異能を使っていいのは相手の許可があった場合のみだ。
タイアン殿下とふざける時など、念書を取っているわけでもないから、事後「同意していない」と言われれば、こちらとしては厳しい立場におかれることになる。
「心配しないで、そのあたりも考慮してる」
ジャスパーが様子を窺うようにするのは「大丈夫」を信じていないから。
「私のことは信じられなくても、オーツ先生は信じられるでしょう」
「いいえ。ふたり揃えば余計に不安です」
そうまできっぱりと言われては、黙るしかない。
「馬を買いました」
唐突に話が変わった。
「馬?」
「イグレシアス殿下に近況をお知らせした折に、良い馬を見つくろってくれるようお願いしました。私もイリヤで公国杯を勝ちたいと思いまして」
イリヤはスカーレットで優勝してから、公国杯の優勝には縁がない。腕というより馬の力量不足だろうと、古くからの友人は皆思っている。
「そうね、もう本気の引退も考える頃だし、最後にひと花咲かせたいわね」
リリーが納得していると。
「あなたに一頭、贈ります」
何でもないことのように、ジャスパーが言った。
一頭って……一度に何頭買ったのかしら。お高いのに恐ろしい。リリーはふるふると首を横に振った。
「いらない。どうせ、スカーレットみたいなじゃじゃ馬でしょ? それで叱られるのは私なのよ」
「叱られる? なんです、それは」
説明は省くとして、あの国は競走馬の生産で名高い国ではない。坊ちゃまがスカーレットを連れ帰ったのも、留学していたついでのようなものだ。
本気で馬を選ぶなら、隣国王国の方が良さそうだとリリーは考えを巡らせる。
「戻りの船が出航するのは、婚約式の二日後。いくつかの国に寄港して最終目的地は殿下のお国です」
ジャスパーの言い方は、さり気なかった。




