暴れん坊お嬢さん・7
関所の襲撃はこの上なくうまくいき「私は『後方支援』の護衛です」と言うジャスパーの隣でリリーは高みの見物状態だった。
「彼らが二度と同じことをしたくならないよう懲らしめて」と指示したので「カメリア印の棍棒班」も、そこそこ体を動かせたことと思う。
過剰に攻撃したと思われないよう傭兵と椿館の用心棒の武器は棍棒にした。削って多少加工しただけの太めの枝だ。
帯剣したパトリスとアランが彼らの補佐にまわっても、戦闘に関して相手は素人、こちらが圧倒的に強かった。
つきものの略奪は許さなかったぶん報酬に上乗せし、騒ぎが大きくなる前にさっさとその場で解散する。
「また仕事を回してください」
「マダムの仕事なら他を断っても受けますんで」
口々に言ってくれたから、彼らにとっても割の良い仕事だったのだろう。
「ありがとう。円滑に運んだのは、あなた達の働きがあってこそ。機会があればまたお願いするわ」
にこやかに返すリリーを穏やかな表情で見守るジャスパーにも、傭兵達は仲間にするような気安い挨拶で別れを告げた。
椿館の用心棒はカメリアの言う「ばか者」と新人の女の子達と合流し帰国する予定。
もとより小悪党達を捕えるつもりはなかったから彼らは地に転がしたままだ。失神から覚めたら自分で帰るだろう、打撲痛は気の毒だが自らが招いたことだ。
ジャスパーが来てからというもの、アランとパトリスの背筋が目に見えて伸びたのには笑ってしまった。
パトリスに言わせれば「侯の怖さが分からない奴らが羨ましい」らしい。「私にも分からないけれど?」とリリーが言えば「御同類ですから」なんて失礼極まりない。彼が本当に怖がっているかは怪しいものだ。
ここから公国への道について尋ねていたジャスパーが、会話の切れ目でアランに何気なく告げる。
「まだ申請中ですが、近々彼女を妻に迎えルナを正式な娘とします。長いお付き合いになりそうですか、コルバン殿」
なりそうです「ね」ではなく、なりそうです「か」となると語調が強く感じると思うリリーの前で、アランの頬が硬直する。
「それは……」
「ありがとうございます」
すぐに言葉を返せないアランに、祝意を述べたいのだと決めつけたジャスパーが良い笑顔を向ける。
「そうなの。ルナはルナ・アイアゲート・グレイになって侯爵家の娘になるの」
よかったわね。これで身分差は解消、あなたの悩みは減じたでしょう? とリリーが心得顔で笑みを浮かべると。
なんとも言えない表情のアランは開きかけた口を閉じ「ふう」と短く息を吐いた。




