責任の半分はあなた・3
リリーの説の真否はともかく、問題はこの子の扱いだ。
「いかがいたしますか」
エリックが尋ねた先はジャスパーだった。
「間違いに気がついてママが引き取りにくるかもしれない。この子からは愛されて育った気配がするから、そう悪い人でもないと思うのよ」
ジャスパーが答えるより先に横から嘴を挟んだリリーを責めるでもなく、再び子供に目をやり、決定を下す。
「今夜はもう遅く、他家を訪ねる時間ではありません。明日までお預かりしましょう。アイア、この後については?」
言いたくてうずうずしているのを察してくれたらしい。
「いきなり赤ちゃんを連れて行くと、動揺して否定するかもしれない。こういうのは女性が話したほうが角が立たないから、明日にでも家政婦長が、テニスン家の家令か家政婦長のお耳に入れるのがいいんじゃないかしら」
エリックより人生経験豊富な家政婦長が適任に思われた。子供の特徴を会話にまぜれば、あちらも知らん顔はできまい。
それで話はまとまり、今夜は家政婦長が可愛い訪問者の面倒をみることになった。
「さて、我々は話の続きを」
客室に案内してくれるのかと思ったのに、ジャスパーはそんなことを言い出す。すっかり油断していたリリーはぎょっとした。
「話は終わったものと思ったけれど」
「私の部屋へ行きましょう」
取り合ってくれない。このままでは避けられそうにない。
「今ので気が削がれたと思ったのに」
「全く」
「エリックがいるもの」
リリーはまたひとつ、共寝に気がすすまない理由をあげた。
「彼は使用人です」
ジャスパーは生まれながらの貴族だから、そこは区別できるのだろうけれど。
「私にとっては、お兄さんみたいなものだわ。明日、寝具を整えるのはメイドだとしても、顔を合わせた時に『昨夜はお楽しみでしたね』なんて思われると考えただけで……朝食が美味しくないわ。そりゃエリックはそんなコト言ったりはしないけど、絶対に思うと思うのよね」
ジャスパーの口角がわかりやすく下がった。
「ここでまた、お預けですか」
「前もそんなことを言ってたわね。私、飲みながらの言葉遊びかと思ってた」
社交辞令と解釈していたが違ったらしい。いい大人がお世辞に舞い上がるなんて見苦しいだけだと思ったのに。
「何度も気持ちは伝えています」
どこか拗ねたように訴える彼は珍しい。
「だって『誘い誘われ』は、社交界では『ごきげんよう』くらいなんでしょ? タイアン殿下もいつもそんな感じでいらっしゃるし。ルナにも常々言い聞かせているのよ、『紳士のお世辞を真に受けてはいけません。どなたにも同じことを言っています』って」
「……恋焦がれるご令息方が気の毒になりますね」
「そう?」
ジャスパーの熱量が半減した。とりあえず今夜は諦めてくれたらしい。
「客室へご案内しましょう。明日の朝食は同席願います」
「ありがとう」
笑顔を作りながら、リリーは今夜の立役者に思いを馳せた。ありがとう、赤ちゃん。ゆっくりお休みなさい。




