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私のお願いを聞いて ジャスパー・5

とにかく言いたかったのは。

「ルナをルナ・グレイにしたいの。できれば私ごとルナ・アイアゲート・グレイにして頂けると一番だけど、欲張りすぎるのは良くないかしら?」


ジャスパーは言葉を選んでいるらしい。相槌すらない。


「ジャスパーには利のない話だから、ルナが結婚して落ち着いたら、離婚してくれてもかまわない。私がグレイ夫人でいる間も、どうぞお気遣いなく。生活は別棟で構わない、奥様扱いも求めないわ。人前に出すのが心配なら、大人しく家にこもります」


 坊ちゃまは「お前が私といて礼儀がどうのという者はいない」などと言い、高位貴族が知るであろうお作法は教えてくれなかった。


 警備をする上で得た知識もあるが、それだけではないと知るくらいには上流社会を覗き見た。付け焼き刃では通じない罠や落とし穴が、社交界にはそこら中にあるのだ。



 言いたいことはこれくらい。都合の良すぎる頼みでも、おじ様が「まずはご相談なさいませ」と言うから。ジャスパーは人の頼みは断れない性格かもしれない、とリリーは期待している。


「何から言っていいのか。あまり長くては誤解が広がりそうでもありますし」


 そう言ったジャスパーは目頭を揉み、気を取り直したように顔を上げた。


「あなたの目当てがなんであれ、妻とすることに異存はありません。無論ルナも娘として正式に縁組みしましょう」

「えっ。そんな簡単に言っちゃっていいの? 熟考とは言わないまでも、もう少し考えたほうがいいんじゃ」


あまりの早さに思わずリリーのほうがひいた。


「少しも簡単ではありませんし、これ以上考える必要もない。そもそも言い出したのはあなただ、グレイ夫人になりたい、と」

「それは確かにそうだけど……」


 今ここで返事をくれと迫ったつもりは、ない。急がせてあとから「やはり」と断られると、落胆する。よく考えて後日返答をくれればいい。できれば色良いお返事を。

ジャスパーが一歩こちらに寄る。


「いえ、機会を逃すと恐ろしく待たされると身に沁みていますので。あの時、河原で抱かなかったことを何度後悔したことか。『あなたとの初めてがこんな場所では』と躊躇したことは勿論、『手酷くして欲しい』『思いやりを持たずに欲をぶつけて』と言われ動揺してたじろいだ自分が腹立たしい」


 え、私そんなこと言いましたか。と知らん顔をしたくても、心当たりがあり過ぎる。リリーは珍しく目を泳がせた。その抜群にいい記憶力は、他で発揮して欲しいと切に願う。



「あの時は好き勝手言ってくれましたよね、アイア。今度は私の番です。あなたは聞くしかない、グレイ夫人になりたいのなら」


 ジャスパーの目が笑っていない。冗談だと思うのに、なぜかしら寒気がする。リリーは背中をソファーに押し付けた。


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