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シスターリリーの密かなる野望・1

 ルナに家名はないと他には言っているが、実のところルナはリリーの養女にしてある。公国では未婚既婚を問わず養子を迎えられるので、自分に何かあった場合を考えて養子にした。

なので正式にはルナ・アイアゲートだ。


 家名があるといっても、アイアゲート家は養父一代限りの准爵。父は名誉ある平民だが、リリーもルナもただの平民でしかない。 



 アラン・コルバンは長子ながら伯爵位は継がないそうだから、将来ルナが結婚したいと言い出しても、ギリギリなんとかなるかもしれない。


 しかし、相手がセドリック・レアードとなると格段に難しくなる。ルナは何も言わないし、すぐに誰かと恋仲になる感じはないものの、その時になって諦めたり肩身の狭い思いはさせたくない。


 アラン・コルバンと会って以来、リリーが考えていたことだ。



 お休み前に、と暖炉の火の具合を見に来たロバートにリリーが尋ねた。


「おじ様は、ジャスパーと私のどちらを優先?」

「こちらでお世話になります間は、お嬢さんを尊重いたします」


 迷いなく返る。リリーが「ちょっとお話ししたい」とねだれば、ロバートは昔と同じく穏やかな表情で聞く姿勢を取った。


「ルナは美人でしょう」

自慢から入った。

「はい。お嬢さんに似てお可愛らしくいらっしゃる」

「セドリックはおじ様から見て、どうかしら」

「たいへん聡明で前途有望な青年と存じます」


 まあ、家令職に長くいたおじ様が他家のご令息を貶めるような発言をするはずもない。


「彼はルナのことが好きなんじゃないかと思うの。コルバン家のアランについてはご存知?」

ロバートが頷く。


「彼は、うちのルナを狙っていると思うのよね。それで――」

ここからが本題。リリーは丸い目に力をこめた。


「どちらにしろ、ルナに身分をつけてやらないといざというときに不自由な思いをするわ。様々に検討した結果、ジャスパーの養女にしてもらうのが一番問題が少ないという結論にいたりました」


それでおじ様、相談なの。

「なんてお願いしたら、ジャスパーは断れないと思う?」


おじ様ロバートは面食らった顔つきになりかけて、すぐさま立てなおした。


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