ルナと私のこれまで・1
教会の事は、お子様方に教えて頂きながら私がしてみますので、今日くらいはのんびりとなさいませ。
そう勧めてくれるおじ様は、昨夜の薬がまだ抜けていないと見抜いているのだろう。
シスターリリーとしての老けたお化粧でおじ様を驚かせて満足してから、寝室へ戻った。
効果の持続は六・七時間と予測通りでも、眠気と白昼夢を見ているような感覚は続いている。
酒に強い私でこうだから、飲みつけない人ならまだ眠ったままだ。酒服を避けるにしても、改良の余地がある。
そう、ルナの色ガラス。
ジャスパーが職人を呼び寄せ、細かく計測して、かなりの製作期間を経て教会へと届けられた。
目に入れると、可哀想なくらいポロポロと涙が出て大変だったけれど、ルナは子供ながらに我慢強く、慣れて灰色の瞳で外に出られるようになった。
ジャスパーの言うようにお金はいくらでも必要だった。スコットの家に預けていたお金をお父さんが投資で増やしてくれた。その利益を教会の運営につぎこむ。小さな町の献金だけでは、やっていけるはずがない。
毎年決まってシスターリリー個人宛に寄付をくださるのは、グレイ家とポロック家そして学院同窓会。
俗世を離れているとして、カミラとスコットにも会わず、昔の知人とは折々の礼状のみの付き合いにした。
レイクサイド荘の件。オスカー・ワトソンが外交部所属だと知ったのは、先代のレアード伯がまだ当主であった頃、年末に教会へ寄って下さった際の立ち話からだ。もちろん「シスターリリー」が元軍人であるとは、お伝えしてある。
レイクサイド荘はレアード家の持ち家のひとつで、外交部に頼まれて貸していたのだった。
外交部の彼がなぜ武器の横流しの証拠を持っていたのか。彼も一味のひとりで、保身の為に隠し持っていたのか。謎は深まるばかり。
ジャスパーは順調に出世しているとはいえ、切り札は切り時を誤れば、逆にこちらの命取りとなる。
預かった紙束は、やはり、ジャスパーにも機が熟すまで秘匿することとした。
何より優先すべきは、ルナが女ひとりでも生きていけるように育てること。何がどう転ぶかわからないので、王国語も王国の風習も身に着けさせた。
早い段階で、高貴な方々とも繋がりのあるカメリアに会わせた。
「――目を疑うわね……」
驚きのあまり表情が抜け落ちた人を、初めて見た。
お菓子をもらって嬉しそうにするルナに「美人になるわね、この子」と呟いたカメリアの「誰の」は、父親のことだろう。
「わからないの」
気心の知れた友人の前で、リリーは首を横に振った。
「小さすぎて母親のことも覚えていない。私がこの子の母親と知り合った時には、母ひとり子ひとりだったわ。それで、心当たりをそれとなく調べて欲しいのだけど……できる?」
言えない事が多く心苦しくもあるが、知ればカメリアにも危険が及ぶ可能性は否定できない。この肝の座った友人は「気にしすぎだ」と笑い飛ばすかもしれないが、こちらが気になる。




