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おはよう、おじ様

 どうして起きたとわかるのか、謎だけれど。いい頃合いで、扉がノックされる。


「お嬢さん、おはようございます。入ってよろしいでしょうか」


 おじ様に見られて困るものなんて、ひとつもない。

「どうぞ」


 ほどなく、お茶ののったトレイを片手に見慣れたお仕着せ姿のおじ様ロバートが、無駄のない動きで室内に入った。


「お食事はどちらでお召し上がりになりますか」

毎日の事のように、ごく自然に尋ねる。


「いつもは、子供達と食堂でとっているんだけど……、みんなは?」

「お時間が少し早くはございましたが、年長の子に手順を聞きながら支度をいたしまして、ただ今お食事中です」


 場所が変わって慣れなくても、おじ様は変わらず有能でいらっしゃる。子供達も「この人誰?」と思う以前に、従ってしまったことだろう。



「おじ様、どうしてここに?」

 会えて私はすごく嬉しいけど。と言い添える。サイドテーブルにお茶がのるなんて、この教会に来てから初のことだ。こんな日が来るなんて思わなかった。


 まだ足を突っ込んだままの寝台には、真新しいふかふかの寝具。床には厚い絨毯。いつもは節約で細ぼそとしか燃えない暖炉の薪は、赤々と燃えていて。薪の残り数が心配になるけれど、そこはおじ様抜かりはないのだろう。背負ってきてくれたに違いない――は冗談でも追加の手配はきっと済んでいる。


 驚くべきことに窓に下げたカーテンまで地厚のものに変わっていた。リリーが思うに、おじ様は魔法使いだ。

そしておぼろげに覚えている昨夜の会話からして、現在はグレイ家の執事だ。


「愛を伝える日に、ご自身は公都を離れられないとの事で、ジャスパー様により私が遣わされました」

「いつまでいてくださるの?」


 おじ様の淹れるお茶は絶妙だ。そろりと味わいながら尋ねる。


「無期限でございます」

かつて見慣れた微笑とともに。


「ムキゲン?」

リリーから素っ頓狂な声が出たのに、ロバートの表情は少しも変わらない。


「はい。昨日付けでこちらに移動となりましたので。ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます」


 柔らかな笑みに、リリーは信じられない思いで二度三度と瞬きした。


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