勝ち気な猫目金緑石・3
ジャスパーが思考をまとめつつアイアゲートの背中をトントンとしていると、文句を言うどころか緊張を解きくつろぐ。
取りようによっては狡いそれすら愛しく思えるのだから「つける薬はない」と諦めてしまえば、いっそ自分でも清々しい。
「アイア、条件は撤回します。色ガラスは可能な限り早く作らせます。そして『条件』ではなく『お願い』があります」
無茶は言われないと察しているらしい猫目金緑石の瞳を持つ同級生は、聞きもしないうちから「わかった」などと胸に頬をすりつける。
「私が少しでも安心できるよう、今の時点で分かっている事を残らず聞かせて下さい。今後は定期的な資金援助もさせて頂きたい。教会運営は物入りに決まっている、その上子供を育てるとなれば出ていく一方です」
アイアゲートが一財産持っているとしても、瓶の水は汲み出していればいつか底つく。汲み出す以上に足さなくては。
「それくらいさせて下さい」
「どうして?」
また眠くなったらしい、語尾が甘くなっている。
「あなたとあなたの娘の存在が私を強くし、高みを目指そうという原動力になる」
あなたの為でなく自分の為ですと伝えて返ってきたのは、「あ」とも「うん」とも言えない眠気に負けた声だった。
「それにしても、人の体の上で寝るのは止めて頂きたいものですね、アイア」
もちろん返事は期待していない。隣ではルナが丸くなって寝ている。子供は皆丸まって眠るものなのか、弟妹はなく息子ポールと接することのなかった自分には分かりかねる、とジャスパーは目を閉じた。
ルナには「この子の力になりたい」と思わせるものがある。セレスト家に頭を垂れたくなるように、ベルナール家にもそんな何かがあるのかもしれない。金髪紫眼にこの整った顔立ちが、ただの庶民とは考え難い。王家と関連づけるのが妥当だ。
「ママ」の行方を探すつもりが、逆にこちらが良からぬ輩を手招きしたようになり面倒事を呼ぶ事態も考え、アイアゲートは「知らない」「分からない」で通しているのだろう。
アイアゲートのその辺りの嗅覚は信頼がおける。彼女の選択を尊重すべきだった。
浴室から出てほこほことしているふたりを目にした時から、勝負はついていたように思う。
アイアゲートがこの子を守るというなら、丸ごと守るまでだ。
「麗しの母娘は最強ですね。あなた方の平穏な日々を維持する為に尽力する、とお約束しましょう」
返事は期待していない。ジャスパーは丁寧に掛布をととのえると、ママになった同級生を抱きなおし、自分もひと眠りすることにした。




