麗しの母娘・4
聞かれたくない話は子供を寝せてから。大人の暗黙の了解であるが、ルナはひとり寝を拒否した。
「みんなで寝るの」
主寝室と言っても、自分も別邸に来て数日寝ただけ。使ってもらうのに何の支障もないが、三人で寝るのは抵抗があると困惑していると。
「ルナはきっと、自分が寝たあとに大人だけで美味しい物を食べると疑っているのね」
したり顔でアイアゲートが断言するが、それは違うような気がする。ジャスパーは返答を避けた。
ルナにはぜひ寝てもらいたい。それには納得する状況を作ることだと、ルナを中心に三人で寝そべることにした。
「パパはママのおとなり」
理由はわからないが、小さな手で指示する。
「はいはい」
アイアゲートはあっさりと了承し「ルナ、ママ、パパ」の並びになった。
そして、真っ先に寝入ったのはアイアゲートだった。赤毛を指でくりくりして遊んでいたルナは、ママが眠ったのを見届けると大人しく目を閉じた。
ルナが寝返りをうち腕枕から外れる。アイアゲートが向きを変え、ジャスパーに半身乗り上げるような姿勢になった。
近すぎて顔も見えない。重さと体温を感じながら、ジャスパーは天井を見つめた。
シスターになり剃髪したものと思っていたが、豊かな髪はそのままだ。
「どうせ頭巾でぴっちり包むのだから、髪があってもわからないわ」
真面目に言うので反論は避けたが、根本的に間違っている。ジャスパーはルナを真似て赤毛を指に絡めた。
ここまで子連れで来るには相当苦労したのだと、化粧を落としたアイアゲートの目の下に見えたクマからも想像がついた。
「――誰にもつけられていないわ。回り道までして確かめたから大丈夫。あなたに迷惑はかけない」
挨拶をするのに頬を寄せた機会に、早口に告げられた。
カミラを騙ったことも含め、この子は訳アリなのだと考えるまでもなく分かる。すぐにでも事情を聞きたいが、道中熟睡できなかっただろう彼女を思えば、安眠を妨げたくはない。
何時間かして、不意にアイアゲートの手が動きだした。緩やかに体を撫でられて、ジャスパーは静かに息を吐いた。
ぼんやりとした気配に、彼女はまだ完全に目覚めていないのだと悟る。肩から胸、腹と滑るように順に下がる指先は思わせぶりもいいところだ。
「そこまでに。アイア」
手を重ねて動きを封じたのにすぐさま抜け出して、細い腕が腰に回る。
這い上がる衝動をどうにか逃がそうとジャスパーが苦心していると。
「そこまで?」
なんとも頼りない声がした。
「そこまで、です」
アイアゲートの耳に唇を寄せて囁くと、くすぐったそうに目元にシワを作る。
横目に入れつつ「私達の可愛い娘はよく眠っていますよ。ここからは大人の会話といきましょうか」切り出した。




