表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

448/600

ラウールと朝まで・4

「孝行娘の親なら、肺病持ちがお決まりじゃない?」


 お気に召さなかったのなら設定を変える、脚が悪いとか。

このくらいの失敗、平気でしのげなくては、花売りなんてしていられない。


 リリーが小首を傾げて返すと、ラウールが可笑しそうにした。


「勝手に作るな」


 本当に本当だけどね。つられた風を装い笑っていると、不意に部屋の空気が変わった。


「もっと知りたくなった」

「なにを?」

「あんたを、だ。――リリアナ」


 リリーが目を丸くした時には既にラウールは距離を詰め、リリーの座る椅子の背に片手をつき、見下ろす態勢になっていた。


――近い、近すぎる。椅子から床に背を滑らせて逃れるつもりが、うまくいかない。

 ラウールの片膝がリリーのスカートの上から椅子に乗っていては、動けるはずもなかった。



 これは……もしや、色っぽい展開なのか。ちびと今の自分リリアナとを切り離すのには成功したのに、思いもしない方向へと進んでしまったらしい。これでは、おかみさんの思惑通り。


 いやいやいや。自分で否定する。この手の自意識過剰は、勘違いだと知った時には転げ回りたくなるほど恥ずかしいもの。まずは心を落ち着けて、と自分に言い聞かせて平常心を取り戻そうと努め、リリーは提案した。


「なら、お話しする? それには近すぎると思うの」

「いや、話なら充分にした」


 上着のボタンを外すラウールの指を凝視するリリーは「脱ぐほど暑くないのだから着ていたらいいんじゃないかしら、マタドール」と言いたいのに、どうしてか声が出ない。


 大きな男物の上着が足元に落ちた。そんなふうに脱ぎ捨てたら皺になる。穴があくほど見つめていると、喉の奥にこもるような笑い声が聞こえた。


「見るならそっちじゃなくて、俺にしてくれ」


 ラウールの指がリリーの顎と下唇にかかった。上向きにされたせいで口が薄く開いてしまっている気がする。

 誘われるように見上げると、濃い睫毛に縁取られた瞳が揺れることなく、そこにあった。


奥になにかひそんでいると感じてしまうほどに深い色。



 何だろう、この感じ。どうにでもなれというような、されるがままになりたいという望みが湧く。そうしたら私どうなっちゃうの? どうにかされてみたい。なんて強く惹かれる気持ちがこみ上げる。


 好奇心は猫の子を殺すと言うけれど。あまりに大きな誘惑は子猫には抗えず、好奇心に負けても後悔はないと思う。


 猛牛もきっと、こうやって誘われるのだ。リリーは唐突に理解した。任せたら何を見せ、与えてくれるのだろう。ゴクリと鳴ったのはラウールではなくリリーの喉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お知らせ!?ですっ!? 今現在(12月8日午前1時34分)小説pickup!の3番目に載っています♡ 以上です!失礼致しました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ