相手が誰でも勝つのは私・1
「踊り子は、四十から円熟味を増す?」
新しく得た知識を披露するリリーを鼻で笑うのは、ラウールだ。
今日は家で食べなくちゃならないから、とマテオはラウールの店にリリーを置いて帰って行った。
「目の肥えた男は歳もいってるから四十女がいいだろうが、人気が高まるのには素人ウケが欠かせない。十五・六の肉がパンと張った活きのいい女が荒削りの踊りで颯爽と現れて、拍手と注目を浴びて洗練されてく様を見たいのが、客ってもんだ」
闘牛士も魅せる職業のせいか、ラウールの言葉には説得力がある。
つまり若い頃から売れっ子への階段を駆け上った踊り子が年増になったら芸は最高。リリーはそう理解した。
分かっている、とラウールが鼻を鳴らす。
「カルロータの話を聞いたのか、マテオから。どう思った?」
「今の話からすると、これから国一番の踊り子になるのは難しいような気がする」
「ずいぶんと優しい物言いだ。若い女は残酷なものなのに」
口元に刻まれた皮肉にも見える笑み。
「容色なんて例外なく衰えるのよ。それに今の私よりカルロータさんの方が美人かもしれない。若けりゃキレイってこともないわ」
美醜は顔の造りによるから。意見を述べるリリーにラウールが驚いた顔をする。
「十人が十人、カルロータよりあんたの方が美人だって言うさ。そしてこう続ける『カルロータも昔はちょっと凄いような美人だったが、今じゃ顔に険が出てる』ってな」
生き方が表情に出るというから、カルロータさんは思うようにいかなかった全てが「険」となったのだろうかと想像する。自分の未来にもあり得ることだ。
他にお客さんのいない店内でリリーとラウールが話しこんでいると、前触れなく男性が扉を開けた。ドヤドヤと入って来たのは男性ばかり四人。
「あんまり静かだから、やってないかと思ったぜ」
「もう終いか?」
口々に言いながら慣れた様子で勝手に椅子をひいたところで、ピタリ。リリーと視線が合った。
この国の人は、濃い睫毛に縁取られた大きな目が印象的だけれど、さらに大きくなっているのが、おかしい。
「こんばんは」
奥の席に座ったままリリーから挨拶する。
「こんばんは、綺麗なお嬢さん」
「こんばんは、べっぴんさん」
大きな声が返る。すでにかなり飲んでいるらしく、リリーのところまで酒の匂いがする。
ラウールがあからさまに嫌がる素振りをみせた。
「飲むんなら他行けよ。もう閉めるとこだ」
「いや、何言ってんだ。こんな美人を独り占めしようって、お前も小さい男だな」
「大声を出すな。酔った男ばかりのなかに女ひとりは怖いだろうが」
え、怖い? そんなの軍ではよくあった。怖いと感じたことはない。たいてい知った顔がいたし、周囲が酔えば酔っただけ、こちらの身の安全も増すというものだ。リリーの逃げ足の早さはそこそこでも、長距離になればなるだけ逃げ切る自信がある。




