スカーレットリリー・5
「目立ちに目立ったな」
何をおっしゃる。口にするご本人が一番目立っているのに。
ミルクティー色の髪と比類なく美しいとされる金茶の瞳を持つ公国一の貴公子がそこにいた。人垣が割れるのも当然だ。
いつの間にかイリヤのお兄さんまで、距離を取っている。
目立ったのは私じゃなくて。
「スカーレット?」
「――お前だ」
坊ちゃまエドモンドが、愚かな子を見る目つきになる。
そんなことを言っても、騙されない。
「みんな叫んでたから、目立ってないわ」
「淑女以外は、な」
冷静に付け加えられて、思い当たる。たしかに興奮して声援を送っているのは男性ばかりだった。そのなかで高い女声は響いたのに違いない。
馬は耳がいい。騒然としていても、スカーレットと仲の悪い私の罵声なら届くかと思ったけれど、馬だけでなく人、貴賓席にまで聞こえてしまったとは痛恨の極みだ。
「ごめんなさい、坊ちゃま。……恥ずかしかった?」
行儀見習いの大騒ぎ。異国の言葉で内容のわかる人がほぼいないとしても、はしたない事には変わりがない。
リリーは申し訳なさに身をすくめた。エドモンドがわずかに目を大きくする。
「お前の的確な助言がなければ、スカーレットは本気にならなかった。軽い分キレと速さは一流だ。今日のような良馬場なら、実力さえ出せば勝機はあると見ていた」
その実力をひき出すのが難しい性格なのがスカーレット。馬主の解説を皆が有り難く拝聴しているので、ぼかした「お前の的確な助言」は、当てこすりだ。そして今後のあるスカーレットを「ムラッ気があって扱いにくい破天荒な馬」と、声高に言いはしない。
やはり最後の「この駄馬!」までお耳に入ったのだろうとうつむくリリーの指を、エドモンドが取った。
怒ってない……? 恐る恐る顔色を窺えば、貴公子は誰もが見惚れる微笑を浮かべた。
「私のスカーレットを勝たせた勝利の女神に」
言うなり、リリーの指先に唇をつけた。
周囲がどよめく。
「ぼっ……でんか! 殿下!」
リリーは焦ってあわあわとするのに「スカーレットの育成関係者で優勝の功労者だ、かまわない」と坊ちゃまは平然としたもの。まだ繋いだ指先から伝わるのは「先にジョシュの屋台へゆけ。私も後から行く」だ。
前回同様、イリヤの勝ちをワイン商ジョシュの屋台で祝おうというのだろう。
スカーレットよくやったわ、次に合ったら人前で罵ったことをちゃんと謝ろう、と思う。きっとこれからも仲良くはならないけど。
今日は飲ませてもらえるらしい。リリーの笑顔がはじけた。




