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スカーレットリリー・1

 本日の空は高く、雲は白く風は爽やか。絵に描いたような初夏。




 花売りをしながら母と暮らしていたリリーが、公国一の貴公子と名高いエドモンド・セレスト殿下と出会ったのは十歳の頃。もちろん当時は「お金持ちの坊ちゃまだ」と思っただけで、どれほど貴い身分の方なのかなど、少しも分からなかった。


 あまりにみすぼらしい子供を見かねてか、エドモンド殿下と、家令を務めるロバートおじ様が目をかけてくださり何とか生き延びた。


 その後、母を思わぬ事でなくし孤児になりアイアゲート家に引き取られ、学院へと通わせてもらった。


 何も告げずに異国へ留学された坊ちゃまエドモンド殿下とは、それきり会えないものと思っていたのに。在学中に再会し、行儀見習いとして雇用してもらい、今は恋人のような関係にある。



 リリーはこの三月に学院を卒業し、四月から公国軍で働き始めた。「危ない真似は許さない」という坊ちゃまの意に沿う形で、採用は文官としてだ。


 それでも一年は新人寮で寝泊まりし、軍学校で全員同じ訓練を受ける。とはいえ、ジャスパーのような高位貴族と下層にあたる庶民が全く同じというわけでもない。


 特に女子は、軍属の女性が極めて少ないのに「威圧感のない警備」「同性である女性にしか任せられない警護」など、「これも軍の仕事の範囲なのか。ただの案内係では?」とリリーが首をひねるようなものまで、今後は業務範囲が広がる予定らしく、男女分かれての訓練も多い。


 結局は「男じゃなくてもできる仕事」が回ってくるだけだろうと理解しているが、仕事があるだけマシというもの。そして魅力の男女同一賃金。



「新人女性を登用したい」とエドモンド・セレスト殿下より指名を受ければ、上もよい顔をして送り出す。


 リリー・アイアゲートは、着ているデイドレスに目を落とした。淡黄色のオムレツのような色。赤毛と取り合わせがよいと坊ちゃまは言うけれど、ヒヨコ色だ。……懐かしい。なつかしい?




「アイアさん、どうかした?」

腕をポンポンとされてて、リリーはハッと我に返った。


 隣りで日焼けした顔をほころばせるのは、イリヤのお兄さん。この後、坊ちゃまエドモンドの所有する赤毛の牝馬スカーレットと共にイリヤが公国杯に挑むので、リリーは「私服警備」という名のただの応援に来たのだった。


 今いるのは、馬主や調教師、牧場主などが集まる関係者席だ。

貴賓席となっている天幕には、他国からお越しの賓客、セレスト一族、そして公爵侯爵が集う。こちらはもちろんリリーのような新人ではなく、選りすぐりの精鋭が警備している。

 グレイ侯爵の子息として訪れているジャスパーは、本日は勤務外だ。


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