愛と共に届くもの・4
初めにルナの目に飛び込んだのはピンクのチューリップ。綺麗な蕾で葉も青々としている。
そして金髪。アランだった。
「アラン様」
呼び掛けたルナに反応して頬が緩みかけたところで、アランはパチパチと瞬きをした。
どうかしただろうかと思うルナの後ろで、「起こして」と聞こえ、シスターが身動きするのが伝わってくる。
――そうでした。ルナは頬に添えていた手をそっと下ろした。
シスターとタイアン殿下はおふざけの流れから、礼拝堂には似つかわしくない姿勢をとっており、扉から入ったばかりのアランにしてみれば自分もその一員に見える、と思い当たる。
「お花が届いたわね、ルナ」
何事もなかったかのように白々しく口にするシスターに、ルナも全力で合わせる。
「遠いところをようこそ、アラン様。お泊まりは今夜も椿館ですか」
「……ではない。今回も隣の酒場の二階だ」
取り繕おうとして沢山話したのが裏目に出た。保養地というかわりに椿館と言っただけで他意はないのに。
気を取り直したアランが「お変わりのないご様子、なによりです」とシスターに挨拶し、ルナに花束を渡す。
「綺麗なお花をありがとうございます」
礼を述べるルナに頷きながら、ちらりとシスターの脇を見るのは、礼拝用の机に置かれた殿下からの薔薇の色合いが珍しいせいだろう。
大公家の薔薇は香りが強い。ずっといて鼻が慣れてしまっているが、外から来たばかりのアランはより感じるはずだ。
「元気にしていたか」
「はい、おかげさまで。巡礼の旅では本当にお世話になりました」
「いや、こちらこそ。得難い経験をさせてもらった」
アランの口調がいつもより堅いのはシスターと殿下がそこにいるからか、と思うルナにアランが手紙らしき物を差し出した。
「これを――」
なんだろうと受け取ろうとしたところで。
「ダメよ、ルナ」
シスターの鋭い声が飛んで反射的に両手を背中へと隠した。チューリップまで一緒に背中へと移動する。
「下さるからといって、考えなしにホイホイ受け取ってはなりませんよ」
今度は幾分落ち着いた声で注意された。
先ほど「手をだして」と殿下に言われて、素直に出していませんでしたか、シスター。などと正しい指摘をしたりはしない。大人は都合のよい生き物なのだ。
手を隠したついでにきゅっと唇も結べば、ルナの前に行き場を失った手紙が取り残された。
アランの困惑が手に取るようにわかるけれど、シスターリリーのお言葉に反抗はできない。
「そのての上等な紙は、よくない物である場合が多いのに、受け取ったら最後断れないのよ」
シスターが決めつける。まさかそんな罠みたいなわけはない。思うルナがアランの顔に目を移すと、珍しくばつの悪そうな表情に変化した。
――よく分からなくて戸惑う。それにしても、この膠着状態をどうしたらいいのだろう。
「気になるね」
タイアン殿下が軽く言い、ルナの脇から手を伸ばしひょいと手紙を掠め取った。瞬時にアランが取り戻しかけたのに途中で止めたのは、シスターが目で制したのかもしれない。
「蝋で封までしてある」
解説しつつ音を立てて開封する。ルナも振り向いて、殿下の肘に手を添えて横から見るシスターと一緒に手紙を覗いた。
ルナの書く装飾文字とはまた違った独特の文字は、逆さまでは読みにくい。
「へぇ……、ユーグ殿下はうら若き乙女ばかりを集めた舞踏会を毎年開いているのか」
その言い方はいかがなものか。多少の問題を感じたのはアランも同じだったらしく、微かに眉をひそめて修正する。
「ご令嬢のみでなく、今年社交界へとデビューされるご令息もお招きしております」
「で、王国のご令嬢でもないのに、なぜかお招き下さるおつもりで事前の出欠伺い、と」
黙りこむアランの反応を確かめつつ、シスターが語り出す。
「ユーグ殿下は早耳ですもの。ベルク領から聖女派本山へと、殿下お気に入りのアランが女連れで巡礼したと知って、思うところがおありだったのでしょう。シャルル様からヘザー・ケンドール様、そこからレアード家そしてメイドのルナと繋がったのね。その能力、他で活かして頂きたいものだわ」
これみよがしに嘆息するシスターに向けて、アランが反論を試みた。
「この先、結婚すれば王国に暮らす事になるヘザー嬢をご招待するにあたり、お一人では心細かろうとルナ嬢をご一緒にとの配慮です。――本山行きを知っての事とは思いませんが」
「配慮」
そこだけ繰り返したシスターが冷笑して続けた。
「耳に入っていないなんて、本気で思っているの? 口にしないのと知らないのは、また別よ?」
アランの沈黙が答えなのだろう。考えてみれば、ユーグ殿下は歳は離れているものの、血筋としてはルナの兄にあたる。もちろん伝えるつもりは全くない。
特別客としては良い方であったが、癖は強かった。出来るだけ接点は少ない方が身のためだとルナには思える。
だからこそシスターリリーは、アランを責めているのだろう。
「あなた、よくこんな物が届けられたわね」
シスターは軽く感心してみせさえするが、明らかに嫌みだとルナにも分かった。




