アイアゲートとジャスパー・7
ジャスパーが付け加える。
「安全が確保出来ないと思われる場合は、保護させて頂きます」
何げなく伝えられた言葉には頷くしかない。
公都にいれば警備もしやすいが、離れた田舎町に数人でも若い男が増えれば目立ち噂になる。
レオンがすぐに溶け込めたのは、ジャクソン商会が「商売を広げるために中央にすり寄り、公国の為に住居を提供している」と自ら噂を流した事と、レオンの見目が良かったからだ。
教会は田舎といえども様々な人が出入りする場所で、立ち入りの制限はなかなかに難しい。警備の効率を考えても、指揮を執るジャスパーの保護下に入るのは妥当だ。しかし。
「あなたもよ。無理をしてケガのひとつでもしてご覧なさい。即座にルナを連れて国を捨てるわ。例えそれが決行前日だろうと」
言われっぱなしにはしない。
少しでも綻びが見えたら、助けなどしない。迷わず見捨てて、ルナを連れて逃げる。そして二度と戻らない。
「心得ています。アイアもルナも部下もそして私も、傷ひとつつける事なく、穏便に武力抜きで勝って見せます」
ジャスパーが顔色ひとつ変えないのは、それだけの自信があってのことか。そこまで聞ければいい。迷いのない黒い瞳とその決意に賭けてもいい、今は。
アイアゲートは肯定の代わりに、腰に回した腕にぐっと力を込めた。すぐにゆるめ可能な限り顔を離して口にする。
「話はついたわね。……そろそろ離れないと帰れないわ、お兄様」
力では敵わないのだ、この甘ったるい口調を嫌がればいい。自分で決めた設定に飽き飽きしたアイアゲートは、ジャスパーのうんざりとした顔を期待した。が、返しを待たずとも悟る。
……ジャスパーの口角が上がっている。失敗した。
「帰らなくとも、今夜はこのまま屋敷に泊まればいかがですか? 我が妹。私はまだ話し足りませんが」
肩にジャスパーの指が食い込みそうだ。
戻りの乗り合い馬車は、とうに出てしまっている。
ここから公都へは、ジャスパーに頼まなければ戻れない。
アイアゲートの考える事など、お見通しらしいジャスパーは、こちらの出方を見ている。
楽しんでいる様子の男盛りの同級生に、ふと思い出して今更ながら聞く。
「ねぇ、午後からもうひとつ会議があったでしょう。あれは?」
「任せて来ました。後から資料を見れば事足りる程度のものです」
仕事を放り出してまで追ってくるのはどうなのかしら。呆れて物の言えないアイアゲートに、ジャスパーが笑いかける。清々しいほどの笑みだ。
「物事には優先順位というものがある。私はもう間違えたりなどしませんよ」




