レオンとハリーと幼いルナと・1
よくある田舎町の教会では、本来の布教活動に加えて奉仕活動も多岐に渡る。孤児院経営もそのひとつであり、それに付随して寄付金集めも必要となる。
ルナが身を寄せる「英知の使徒」の教会は、シスターリリーの庇護のもと、暮らし向きは楽ではないものの、飢えることなく子供達が健やかに暮らしていた。
ルナは最年長の十二歳。ここでは十三歳までに身のふり方を決め、独り立ちすることが決められている。
女子ならば商家の子守りであったり、住み込みのメイドであったり、男子ならば手に職をつけるために、工房や現場へ見習いに入ることもある。
十五歳になれば婚約でき十六歳から結婚できる。
シスターリリーは自分の足で立ってからの結婚を常々説いているが、生活力によってはそれも難しい。
ある意味シスターより現実的な考えで、ルナと同い年のロージーは世間を見ていた。
「ねぇ。今日、ジャクソンさんに、仕事のことを聞きたいわ」
教会の食堂のテーブルを作業台にして、色を塗り終えたばかりの手のひら大のカードを乾かしながら、ロージーがこちらを見た。
手で持ったカードをヒラヒラと振っているけれど、置いたままでも乾く早さは変わらないのではないかと思いながら、ルナは字を書く手を止めて、幼なじみの少女と目を合わせた。
「今夜はやめた方がいいんじゃない? 寄付集めにご協力くださるだけでもありがたいのに、他のお願いまでしたら、パーティーのお邪魔になるわ」
「でも。でもよ、呼んでもらえなければ、こちらからジャクソンさんのお屋敷へなんて、行けないじゃない」
小麦色の肌に、ぽってりとした唇。目尻のホクロ――泣きボクロと言うらしい――が、幾分ここからは遠い異国の出身かと思わせるロージーは、悩ましげにこちらを見る。
「そうねぇ……」
ロージーはいつも言い出したら聞かない。あと少しでここを出なくてはならないのに、一人立ちのめどが立たず将来が決まらない。
他国からの品をお店に卸す商いをしているジャクソン家は、この町の有力者だ。なんとかお近づきになりたいというロージーの気持ちは、ルナにもわからなくはない。
しかし、教会の評判を落とすのも問題だ。
高窓から差す日差しの角度で時刻を測りながら、ルナは思案を巡らせた。
「じゃあ明日の午前中に、寄付活動へのご協力のお礼を言いにお訪ねするのはどう? それならば、奥様にお話を聞いて頂けるかもしれないし。夜よりゆっくりお話しできるんじゃない?」
「それいい!そうね、それがいいわ!」
一気に表情を明るくして、ロージーがテーブルに身を乗り出す。その変わり身の早さには、呆れを通り越して感心するほどだ。
ロージーの心配は、ルナの心配でもある。明日伺うためには、今夜のパーティーでしっかり寄付金を集めなくては。それにはまず、このフォーチュンカードを仕上げなければ。
絵を担当するロージーの仕事が終われば、装飾文字でメッセージを書き込むのはルナの仕事だ。そうとなれば、ロージーの話し相手をしている暇はない。
ひとつ息を吸い込むと、ルナはペン先を美しいブルーのインクに浸して、迅速かつ正確にと心を配りながら文字を記しはじめた。




