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子弟交流会ーメイドのナンシー・6

アランが言葉を紡ぐ。

「コルバン家は、長男が跡を取るとは決まっていない。そして古くからの慣例で金髪碧眼の男子は家督を継がないと決まっている。シャルルのいるこの代は、コルバン家を継ぐのはシャルルになる」


 寝耳に水とはこのことで。マルグリットは驚愕を隠せなかった。


「美しく大きな瞳がこぼれ落ちそうだ」

ふっとアランが微笑む。


「そんな……」

続く言葉が出てこないマルグリット。


「家を継がない私は、大きな功績をあげなければ爵位を持てない。買えば良いと思われるかもしれないが、コルバンを名乗る者としてそれは出来ない。伯爵令嬢でいらっしゃるマルグリット嬢を幸せにするには、私では資格が足りないのですよ」


苦しげに告白するアラン。

「それでも」と言いかけると。アランは自分の唇の前に指を一本立てて、マルグリットの言葉を封じる。


「貴女に、平民は似合わない。あなたは高みにいてこそ輝きを放つ女性だ。どこからでも貴女がここにいると分かるような、高みにいて欲しい。気高い貴女の真っ直ぐさを愛する男性はきっと現れます」


マルグリットは言葉を失って、ただただアランの顔を見つめていた……




「アラン様は私に、そのように仰いましたの」


 一人芝居――それもかなり上手い――を終えて、うっとりと思い出にひたるマルグリット嬢。


 ルナには疑問が幾つかあるけれど。

なんだか美化されすぎでは? とまず思う。


 ルナの前ではアランは自分の事を「私」ではなく下々のように「俺」と言うが、マルグリット嬢のようなきちんとした身分のある方には「私」で通すのだろうか。それはいい。


「美しく気高い」とか「輝きがどうだ」とか、ルナの知るアランとは別人だ。同じ人とはとても思えないが、王国男子は事によっては変身するのか。


――などと突っ込むのは野暮になる。マルグリット嬢はその日見て感じた事をそのまま話してくれたはずで。


 同じ話をアランに聞いたとして多少――「かなり」かもしれない――違ったとしても、どちらも正解なのだ。人は自分を通してしか、見たもの有った事を語れないのだから。



「ルナさんはご存知でしたの? 家督相続のこと」


 マルグリット嬢に問われて、記憶を辿る。聞いた覚えはない。どこかでシャルルが「嫡男」とでも口にしていれば記憶にありそうなものだけれど。


「いえ、聞き落としているのかもしれませんが、今初めて伺ったと思います」


 もしかしたらヘザーも知らないのではと、ふと思いつく。あの愛らしくも忘れ物ばかりのヘザーで「伯爵夫人」が務まるのかと不安を感じるけれど、そこはシャルルが何とかするのだろう。


それにしても。

「なぜ跡を継ぐのに、金髪碧眼が関係するのでしょうか」


答えを知っているかと尋ねたルナに、マルグリット嬢はかぶりを振った。


「聞きそびれましてよ。それ以上立ち入ったお話は聞きにくい雰囲気がアラン様にございましたの」


「さようですか」

ルナとマルグリット嬢の間にも、この話題は続けにくい空気が漂う。


「ひとつお尋ねしたい事が」

ルナは話題を変えた。


「ナンシーさんは、この計画をどこまで知っていらっしゃるのですか」


 図書館で考えるうちに、後で確認しなければと思った内のひとつだ。兄君のオーギュストさえ全く知らないこの計画を主役であるナンシーはどこまで。


「知りませんわ」

あっさりと返された。


「全く?」

「ええ、まったく」


 ルナに相談しない内から期待をさせては、断られた時にナンシーが可哀想だから。と、説明される。


一理あるけれど。ナンシーが例えば、今更オーギュストに会えば逆に辛くなるだけだと感じていたりなどして。


「ご本人が会いたいと思われなかったら……」


ルナは言いよどむ。


「そんなの。私がナンシーに命じれば良いだけでしてよ」


何でもない事のように告げられて、ルナの思考が停止した。その発想はなかった。


「な、なるほど」


 命じられれば会いに行かなくてはならないだろう。ナンシーに拒否する権利など無い。何より、言い出したマルグリット嬢が引くとも思えない。


 他には? と問うようにマルグリット嬢から視線が送られても、ルナの頭は固まったままだ。取り敢えず問題はひとつ解決した、のかもしれない。形はどうあれ。


 高位貴族の凄さか。はたまたマルグリット嬢のすごさか。ラベンダー祭の夜、ミモザの城の階段で言い負かされた村長の孫娘に対して「貴族怖い」と思わなければいい、と同情したけれど。


 マルグリット嬢には勝てる気がしない。というより勝ってはいけない気がする。ルナは今日も丸くピンクに染められたマルグリット嬢の頬を眺めた。



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