『変わらない永遠』
桜が散る。ひらひらと舞う蝶が地面に落ちて、動きを止める。街灯は眩い光を放っているが、月光のほうがなお明るい。走り抜ける自転車は、同じ場所で走り続ける。猫が鳴き、犬が吠える。静寂のなかで、無数の音が存在を主張する。空中で止まったバッタを掴んだ梟。一人で揺れるブランコに追従する影。落ちたお菓子の袋からのぞく当たりのアイスの棒。遠くから響く雷鳴は凪ぎ、また静寂が来る。落ちてきた雨粒は、血のように赤い。水溜まりは、変わらず快晴を映す。半分いっぱいに拡がる大宇宙の星空を見上げながら、星を口に放り込む。初夏にふさわしい爽快さが口いっぱいに拡がり、星空はいつしかなくなっていた。なにもなくなった空を寂しげに見つめるカラス。それを尻目に未読のページに目を落とす。白紙の紙面に書かれた物語を指でなぞる。物語は、いつだって自分の頭のなかにしかない。枯れ落ちた葉が本に落ちて、すり抜ける。いつしか本は消え、雪が降ってきても、僕は物語を指でなぞっている。世界というキャンバスは、残酷なほどに不自由で、痛快なほどに自由だ。落ちた涙が、星となって、空に還る。満点の星空は、きっと誰かの涙の集まり。大きなクジラの群れが星空を泳いで、去って行く。本から目を離して、僕はただその光景を見つめる。