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世界一の古城作成計画~ドラゴンの花嫁を添えて~

 メリッサを襲ったパーティの司令官は、マツダと呼ばれていたという。


 マツダとはあの『剣闘士』のジョブを与えられ、取り巻きを引き連れて意気揚々と異世界に飛び込んでいった、あの松田だろうか。

 いや十中八九そうだろうな。卵を狙うとか、あいつの考えつきそうなことだし。


 渋い顔の俺を見て、ベルがにやぁっと笑う。


「その顔、何か知ってる感じねぇ?」

「ああ……うん、俺の知ってるやつだ。『剣闘士』のジョブを与えられてここに転生してきたヤツで、女神の願いに応じて魔物を倒すのが目的」

「へぇ、プライドたっかそー」

「そんでもって『古城清掃人』っていう最弱ジョブの俺を早々に追い出したヤツ」


 そう言うと、メリッサとベルが同時に声を上げた。


「「最低!!」」

「だよなー」

「というか何度も言っているがな、『古城清掃人』は最弱ジョブではないぞ!? ものすごく希少で替えが利かないジョブなんだが!?」

「ただ剣が持てないだけで最弱って考えるの、なんていうか、オトコノコよねぇ~」


 ねー、と顔を見合わせるメリッサとベル。この議論だけは話が一致したようで何よりだ。


「なんか、ごめんな。俺の元クラスメート……ってか仲間がご迷惑を」

「構わん。サトーも私も被害者だろう。それにお前は私を助けてくれたしな」

「ていうか、卵を守るために戦ったんなら、別に名誉が傷つけられたってこともないと思うけど」

「戦う理由が何であれ、敗北したのは事実だ。それは紛れもなく私の経歴の汚点である」


 ドラゴンといういきものはずいぶんと好戦的かつ戦いと名誉を重んじるものらしい。生きづらそうだなー。

 ベルはふむふむと聞いていたが、やがて小首をかしげながら言った。


「で、メリッサちゃんはたった五人のニンゲンにやられたって汚名を返上するために、サトーくんの存在が必要なのね?」

「そうだ! 『古城清掃人』つきの城に私が住んでいると知れば、仲間も一目置くに違いない」

「でもそれって、どうやって証明するの? ここに『古城清掃人』がいますよぉって旗でも立てとく?」


 ベルの言葉に、メリッサは不敵な笑みを浮かべた。とがった八重歯が覗く。


「馬鹿め。その浅慮は幽霊がゆえか? 『古城清掃人』の扱い方など決まっているだろう!」


 メリッサは腕を組み、尾をぴしゃりと床に打ち付けると、高らかに宣言した。


「これよりこの城を私の居城とし、世界一の古城にリメイクする!」


 その気迫に、俺とベルは思わずおおーっと声を上げた。


「気合入ってんな」

「何を他人事のようなことを言っているんだサトー、手を動かすのは全てあなただぞ」

「えっ、俺が全部やんの」

「むろんだ。一応私もデザインなどには口を挟むが、基本的にはあなたの采配に任せる」

「えー……まあ、そのくらいしかできないからいいけど」


 元々ここ俺ん家なんだけどな。まあ、手狭になったら部屋増やせばいいか。

 メリッサはうっとりと周囲を見回す。


「既にこの城は完璧に近いが……。私の持っている宝物を飾れば、また違う美しさと居心地の良さが出てくると思う。よし、まずは私の荷物を持ってくるところからだな」

「え、本気でここに住むのか? 別荘とかにしてもいいんじゃねえの」

「なに、私の今の城は少し手狭だし、それに……」


 メリッサは少し目線をそらし、恥ずかしそうに言った。


「ニンゲンの花嫁というものは、夫の城に住むものなんだろう?」

「――花嫁? 誰が?」

「わ、私だっ。ばかっ」

「え、え、え、なんで? どうしてそんなことに?」


 話が読めない。いつメリッサが俺の花嫁になった?


「えっていうか、夫って俺? ベルじゃなく?」

「あたしなわけないでしょ~。っていうかサトーくん、ドラゴンが一緒に住むってことの意味、知らないんじゃない?」


 ベルの言葉にメリッサが、雷に打たれたような顔になった。


「ほ、ほんとうかサトー!? 私たちドラゴンにとって、一緒に暮らすとはすなわち、こ、婚姻の意味なのだが!? 知らなかったのか!?」

「知るわけないだろー! えっ考え直せよメリッサ、俺なんか夫にしたってしょーがないって、俺ただの人間だし!」

「し、しかしあなたは私と一緒に暮らすことに同意したではないか! ならばもう夫婦であろう!?」

「それで決めちゃっていいのかよ!」

「良いに決まっている! 私はあなたと一緒に暮らしたい! 私の城は全てあなたに任せたいのだ……!」


 こうなると思っていなかったのだろう、メリッサはおろおろと俺の服の裾を掴む。

 困り果てた蜂蜜色の瞳が、じっと俺を見つめてくる。


「あ、あなたを『古城清掃人』として利用しようと思っているだけではない。……私はあなたに命を助けてもらった。損得勘定もなしに、ただ、私の命を救ってくれたあなたなら、私はこの身を預けてもかまわない」

「メリッサ……」

「あなたは私のために城を動かし、あんなに高い宝石を使って治療までしてくれた。そんなに優しくされたのは、初めてだったんだ」


 ねえ、とメリッサが裾を引く。ドラゴンとは思えないか弱いしぐさに、ぐっと胸を掴まれる。


「お願いだ。私を受け入れてくれ」


 そう懇願するメリッサの唇が、やけにふわふわと柔らかそうに見えて――。

 ごくんと唾を飲み込んでしまった。

 メリッサの後ろで様子を見ていたベルが、あらぁ? と人の悪い笑みを浮かべる。


「わ……わかっ、た。じゃあ、け、結婚って、ことで」

「! ありがとうサトー! 自分で言うのもなんだがな、私は絶対に良い花嫁になるぞ! 何しろ強いし、強いし、強い!」

「良い花嫁って強い花嫁ってこと? ドラゴンの基準てすげーな」

「? 家を守れる花嫁は良い花嫁に決まっているだろう?」

「家を守る(物理)……。なるほどね」

「おまけに父は皇帝だから、持参金もたんまりだぞ!」


「……は?」


 今なんか、さらりと、すごいことを言っていたような気が。

 口の端が引きつっているのを自覚しながら、あえて確認する。


「お父さんがドラゴンの皇帝ってことはー……きみは、王女様?」

「そうなるな」

「ってことは俺ドラゴンの皇帝に「お嬢さんを俺にください」をやらないといけないってこと!? なんか一撃で殺されそうなんだが!?」

「案ずるな! お父さまは煽ると初手から的中率三割のドラゴンブレスをかましてくる! それが外れた隙に攻撃すれば問題ない!」

「三割って結構当たるよ!?」


 ……と、まあこのように。

 俺の静かだったスローライフは、メリッサとベルの登場で、瞬く間に騒がしくなってゆくのであった。


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