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ドラゴンの皇帝に会いに行くぞっ。……え、いない?

マツダたちをそそのかし、魔物を滅ぼさんとする女神。

その正体を聞きに行くため、メリッサのお父さんに会う――覚悟を決めたのだったが。


そう簡単にドラゴンの皇帝には会えない、とメリッサは言った。


「何しろお父様は激務でいらっしゃる。娘の私でも、約束せずに押しかけて会えるとは限らない。そもそも一か所に留まっていることが少ないから、押しかけるということさえままならないかもしれんな」

「へえー、ドラゴンの皇帝も大変なんだな……」

「うむ。領土の見回りに国境の警備、怪我を負ったり妊娠したりして動けぬドラゴンのための福祉政策、などなど、為政者としてやることは山とあるからな」


 福祉政策! この異世界に来て、ドラゴンの口からそんな言葉を聞くとは。

 この近くの村で、そういった弱者への救済が行われているところは、表立って見たことがない。俺が知らないだけかもしれないが、この時代の人類は、若干遅れているのかも。

 なんてことを考えながら、俺は尋ねる。


「そのお忙しいドラゴンの皇帝に会うには、どうしたらいいんだろうな? なんか家族で集まる機会とかないの」

「ないな。あったとしても、私が人間に深手を負わされた、という醜聞はお耳に入っているだろうから……そんな娘には会いたくないとお思いになるかも」


 顔を曇らせるメリッサ。その汚名を返上するために、世界一の城を作って名声を轟かせる、ってのが俺たちの目的だもんな。


「メリッサのお母さんに頼んでも難しそうか」

「お母様は、お父様が明日別のドラゴンと結婚しても、猫の毛ほどの興味も抱かれないだろうな」


 その乾いた言葉に、踏み入ってはいけないものを感じて、俺は口をつぐんだ。

 それぞれの家庭の事情というものがある。あんまり詮索するのはよくない。


 とにかく、お母さん経由で皇帝にアプローチすることは難しそうだ。


「そしたら……皇帝に手紙を送るとか? っていうかそもそもだけど、ドラゴンって手紙とか使うの」

「結論から言えばノーだな。一応文字もあるし、文字で何かを記して残すということを全くしないわけではないが、どうにも面倒でな」

「へー。紙に書くの? なんか書きづらそうだけど」

「石板か玉に、爪や鱗のカーブした部分を使って文字を刻むことが多いな。紙は爪でたやすく破けてしまうし、火を噴く種族には不評だから、ドラゴンの手紙には使われない」


 なるほどなあ。ということは、ドラゴンの本とかも、紙じゃなくて石や玉に刻まれているのかな。

 俺が宝石だと思っているものは、案外手紙や本だったりするのかもしれない。異文化だ。


「だいたい、石を刻んだとて、お父様に確実に届く保証はないからな。魔法で伝言を頼もうにも、生半可な魔法では弾かれてしまうし」

「そっかー……。誰かに、メリッサが会いたがってるって伝言を頼むとかは」

「それは可能だ。既にお父様の手下の数体に言伝を頼んでいる。――メリッサオイオスが会いたがっている、とな」

「おお。仕事が早い」


 そう言うとメリッサは得意げに胸を張った。人型でありながら、ちゃっかり覗かせている緋色の尻尾が、びったんびったんと地面に叩き付けられている。

 最近、こういう気の抜けたメリッサが見られて、結構おもしろい。


「つまりだ、サトー。今は待ちのタイミングということだ。覚悟を決めてもらっておいて悪いが」

「ん。それに、待ってる間もできることはあるし」

「ああ。この城を世界一の城にする、という目標に向けて努力することだな! 頼んだぞサトー!」

「城の改築は俺ができるけど、城の中に飾るもの――コレクションは、メリッサが充実させるんだからな?」

「うむ! もちろんだ! な……」

「生首以外で」

「む……むう……」


 何だってこう生首に執着するんだ。そこだけは理解できないししたくもないが、生首を禁じられてぐぬぬという顔になっているメリッサはかわいいので、いつか妥協してしまいそうで怖い。


「そう言えば、あなたがダークエルフどもの城に行くのはいつだったか」

「来週~。初めての城コンサル、緊張するぜ」

「まあ適当にやっておけばいいだろう。サトーには、私の城に全力を尽くしてもらわなければならないからな!」


 鼻息荒く言うメリッサを生温かく見つめていた――その時だった。


「ねえねえ、サトーくん?」


 ふわりと壁を通り抜けてやってきたベルが、怪訝そうに首を傾げている。


「外に、おじいさんがいるんだけれど。サトーくんを訪ねてきたみたいよ~」

「おじいさん?」









 城の前にたたずんでいたのは、初老の男性だった。五十代くらいかな。

 この世界ではおじいさん、と言われてしまうのかもしれないが、現代日本ではまだまだ現役といった感じだ。

 しわくちゃの顔や、白くてたっぷりとした髭に目が行ってしまうけれど、それに埋もれた二つの目が、海のように深い青で、とても綺麗だった。

 身なりはそこそこ清潔だけれど、高価なものというわけではない。一体どんな人なんだろう?


 応接室なんて気の利いたものはこの城にはないので(後で作るべきかどうか、メリッサと相談しよう)、食堂に案内した。

 ちなみに、メリッサとベルはここにはいない。幽霊とドラゴンがいるなんて知ったら、この人がびっくりしちゃうからな。


「……良い城ですね」

「ありがとうございます。まだまだ、ですが」


 食堂に通されたことに対する嫌味かな? と思ったが、気にしないことにする。伸びしろがあることは良いことだ。

 その人は食堂を興味深そうに見まわしていたが、ややあって切り出した。


「――あなたは『古城清掃人』と聞きましたが」

「誰から、ですか?」

「とあるダークエルフからです。ああ、悪意があったわけではありません。私が困っているのを聞いて、その人があなたのことを教えてくれたのです」


 歳を経た人だからこそ出せる、掠れているけれど、深みのある声。

 口調はあくまで柔らかいが、少しだけ威厳がある――というか、威圧的だ。

 冴えない風貌で、あんまり話すこともないけれど、妙にすごみのある歴史の先生を思い出した。


 そしてその人は言った。


「もしあなたが『古城清掃人』であるのならば。我が主の城に一度来てはもらえないでしょうか」

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