第90話 生きろ
「つか、知ってた? あの隕石の落ちたとこ、子供の骸骨がめっちゃ出てきたらしいよ」
「え? マジ? ニュースで言ってなくね?」
S区のメインストリートから少し逸れたところにある喫茶店で2人の女子大生がお茶をしていた。短髪の1人はアイスコーヒー、もう1人の長髪の方はカフェモカをテーブルに置いて、時折値段相応の味を楽しみながら雑談に興じていた。
「Twitt○rで流れてたよ。何かネットで騒いでるっぽい」
「それマジ? てか、え? ヤバくね?」
2人が話しているのはつい先日隕石が落ちたG県の山間の集落についてであった。ちょうど混雑しない時間であったからだろう、周囲に誰もいない分、ここぞとばかりに噂話に花を咲かせている。
「なんか普通にちょー偉いっぽい服着た人が来て、全部埋めるように命令したんだって」
短髪の方が髪の先端をクリクリといじりながら言った。
「何それ? てかさ、笠セン自殺したんだって」
「マジ? それのがヤバくね?」
話題は一瞬のうちにすり替わった。隕石が落ちて骸骨が見つかったことと、誰か知人の自殺では後者の方が興味深いらしい。
「マジマジ。で、何か今日おそーしきだって」
「ふーん」
そう言うと短髪の女はアイスコーヒーのストローを口に含んだ。
「あれ? 結衣、笠センとめっちゃ仲良かったんじゃね? 進路とか結構聞いてもらってなかった?」
「だってウチらもう成人よ。何年前の話って。それより昨日の『サバイバルP.I』の特番、見た?」
薄情だろうか、誰かの自殺も流行りのドラマには勝てない。
「見た! てか、究クンの演技ヤバかった! あーしちょっとちびったし」
「うわっ、汚っ」
「違うし、ちゃんと洗ったし」
短髪の女性が仰々しくドン引きをすると、もう片方の長髪の女性が慌てて手をブンブンと振った。
「うそうそ。でも、ウチもびびった! あれだよね、あれ」
「あれってどれよ」
笑いながらコップを持つ目の前の相手に少しむくれた表情で長髪の女は尋ねた。
「だからあれ、……修羅、そ、修羅よ」
「あー確かに修羅ってたー」
「マジでマジだったよね、あの目。究クンやっぱプロ」
2人は水鳥究の演技を褒めたたえた。
「つか、鬼が見えたって後ろに」
「だよね! っていうか、鬼って言えば、犬センの民法のレポート、終わった? あれ、明日までだよね」
「えっ? 来週じゃないの? 冗談止めてよ」
話題は次々に変わっていく。長髪の方の顔から血の気が引いていった。
「いやいやマジ。講義の最後らへんでさらっと言ってたよ」
それは冗談ではなかった。
「マジ? マジ? まだ手、付けてないんだけど……」
長髪は額に手を当てて絶望的な顔をした。
「それちょいツミじゃね?」
が、目の前にうってつけの人物がいることに気付くと顔を明るくし「つかヘルプっ マジで、ここおごるから」と頼み込んだ。
「仕方ないなあ、奈菜は。んじゃ今日のデートは止めにして奈菜のアパートに行きますか」
「デートってねえ……まあ、いいケド……。ホント、お願いね……」
「はいはい、夕飯は奈菜の手作りパスタがいいな」
「夕飯までうちで食べる気かいっ、まあレポート手伝ってくれるしいいんだケド」
*
「ニニィちゃん、久しぶりだねっ」
「うん、リャヌリャちゃん。すっごく会いたかったよ」
2人の少女がいるのは学校の教室であった。
「リャヌリャも! おばあちゃんのところに引っ越してから会えなかったもんね」
「うん。メッセージのやり取りも制限されていたんだ」
「でも、ニニィちゃんすごいよね。自分で稼いでまたこっちに転校してくるなんて」
「でしょ! ニニィ、頑張ったからね」
他から聞こえる雑談の声の中でその2人の会話はとりわけ目立っている。
「リャヌリャも配信見ていたよ」
「ちょっと恥ずかしいな……。結構失敗したし……」
ニニィは頬を染めた。
「途中からスピード上がったよね」
「うん。思っていた以上に人数の減るペースが遅くてね、ああなっちゃった。それに、『ににぉろふ』を使えなくした後はマンネリになっちゃって」
「そう言えばニニィちゃん……今、一人暮らし?」
リャヌリャが首を傾げるとニニィは表情を明るくした。
「うん! 母親は田舎に捨ててきたし、配信で儲かったから結構いいところに住んでいるんだ。今度遊びに来てね、あっ、今日でもいいよ」
「ホント! あっ、でも、今日はちょっと無理かな……。ごめんね」
「ううん全然平気だよ。また、遊べそうな日があったら教えてね」
「あ、先生が来たよ。午前中は夏休みの自由研究を発表するんだって。やっぱりニニィちゃんが一番だと思うよ。地球を使った『透明な殺人鬼ゲーム』の配信なんて、小学生がやるのは難しかったんじゃない?」
「ちょっとだけだけどね」
「でも、どうして地球に注目したの?」
「ニニィ、惑星観察が趣味になってね、色々見て、地球って面白くって。せっかくだからそこでやろうかな、って」
「近くの星でやればもう少し簡単だったんじゃない?」
「でも、あえて遠くでやったのがなんか良かったみたい。再生数が伸びた原因らしいよ。その代わりに、役所の手続きが物凄く大変だったんだけどね」
「ほら、みんな席に戻って戻って」
先生は自分が来ても席に付かない児童に座るように促した。
「まず、ニニィさんが再びこの学校に戻ってきてくれました」
拍手が起こるとにニニィは立ち上がって頭を下げた。
「さて、まずは夏休みの自由研究を発表してもらいます。ほんとは名簿順に発表しようと思ったけれど、みんな気になっているよね? だから最初はニニィさんから発表してもらおうと思います。ニニィさん、お願いします」
「はいっ! ニニィの自由研究は地球を使った『透明な殺人鬼ゲーム』です――」
*
夜、ニニィは寝室のベッドに横になりながら水晶玉を眺めていた。
「ニニィね、ずっと、瑞葉ちゃんのこと、見ていたんだよ」
「でもね、惑星干渉をすると、とーっても怒られちゃうから、それで、このゲームを使うことにしたの」
「いろいろ頑張ったんだよ。お役所に行って、難しいこといっぱいやって、二人が二人のこと覚えているの、本当は反則なんだけど、良かったね」
ニニィは水晶玉をツンと触った。
そこには、身丈にあった若草色の服を着た少女が幸せそうに歩きながら、男に語りかけている姿が映っていた。
**
今回の生存者 柘植廉
一番大事な人 あ
てst
今回の生存者 水鳥究
一番大事な人 父
ゲーム終了後、名俳優である父を超えるべく日夜邁進していたが、特に負の感情を剥き出しにする様子は迫真となっていた。あまりの恐ろしさにリテイクがしょっちゅうかかり、ついにテレビ向きの顔を要求され続けることに耐え切れず、全てを捨てて地獄を表現できる場所を探しに旅に出た。
今回の生存者 堀西瑞葉
一番大事な人 柘植廉
後遺症もなく、元気。現在は2人で暮らしている。ちなみに瑞葉は自分の戸籍がなかったのをいいことにちゃっかり年齢を鯖読みして改正前の法に結婚を間に合わせようとしたが、当然上手くいくはずもなく柘植にちょっと叱られた(なお当然柘植の承諾は得ていない)。
今回の生存者 笠原義忠
一番大事な人 妻
自殺。
今回の生存者 中根雅都
一番大事な人 知人
相変わらず売れない画家生活を続けているが、本人はそれでよいと思っている。死後評価されそうな感じ。
え? こんな人参加していたかって? ちゃんと画面にも映っていたし、実況中にも……あ、ほら! あらすじのところ。最初の最初に出ているよ。
今回の生存者 若林光男
一番大事な人 (育ての)母
フリゲ実況系Y○utuber。テンションが上がると「ンマァーッ!」と叫ぶ。ある時勢い余って「ママァーッ!」と叫んでしまい、以来マザコンのキャラ付けが勝手になされた。本人は育ての親に感謝しており、嫌がっていないどころかたまにわざと「ママァーッ!」と叫んでは再生回数を伸ばしている。
今回の生存者 ニニィ(NN)
一番大事な人 リャヌリャ(NN)
自分の紹介なんて、照れちゃうな。えっと、このゲームを始めたのはニニィのお父さんが病気になって、狙ったように腹違いの弟が見つかって、それはあの女が襲ったんだけど、母親が狂って、あの女に財産を取られて、お父さんが死んじゃって、クソババアのところに母親と一緒に引き取られたんだ。このクソババアとそこの田舎がもうとにかく陰湿で、ニニィはそこから脱するためにほとんど全部持っているものを売って、奨学金を借りて、なけなしのお金で「透明な殺人鬼ゲーム」を買って、続きは配信を見てね。
読んでくださってありがとうございました。




