龍を狩る少年Ⅱ
日本海域に出現した龍は、海中を移動する特性を持っている。だがしかし、ミサイルの雨を受けている時は既に頭が海上に出ていた。それは長い首を器用に曲げている様子を見つめ、俺はあの首を斬り落とせば終わりだと判断した。
誰でも思い付くし、誰でもやろうとする事だろう。だが問題が一つ存在し、海上に出ているという事はつまり、獲物の体は海中にあるという事になる。その為、特攻しようにも懐に入る前に海の中へと落ちるのが関の山だろう。
「……っ」
だがそんな事を考える暇もなく、俺の体は衝動的に動き出していた。崖を飛び降り、歩けもしない海上の真上から龍を目指す。無重力状態になっていると錯覚する程、俺の視界に見える映像は全てスローモーションに見える。
『サァ……見セテ見ロ。貴様ノ実力ヲ』
「――!!」
脳内で声が響いた瞬間、俺の腕や足、身体のあらゆる場所から血管が浮き出ている感覚が伝わってくる。その瞬間、俺の五感が全て研ぎ澄まされた気がした。そして気が付けば、俺は海上を走って龍へと大剣を振るった。
『グォォォォォォォォ――!!!!』
悲鳴のような声が響き、俺は腕を組みながらこっちの様子を見ている閣下の船へと着地した。呆気に取られたような表情をしていた閣下は、俺の事を見つめて言った。
「霧原隊員、良く来たな」
「遅くなりました。戦況は?」
「我々の被害は少ないが、それでも傷は与えた。そして今、君が与えた傷が余程効いているらしい。侵攻が止まった」
閣下の言う通り、先程動いていた龍の動きが止まっている。傷が効いているのかは分からないが、それでも確かに動きが止まっている。だが次の瞬間、俺の鼓動が大きく跳ねた。まるで内側の龍から、危険信号を伝えられたように。
「ぐっ……閣下っ、今すぐに隊を退かせてくれ!」
「何故だ?」
「良いから早くっ!!」
少し考えてから「全軍後退せよ」と言い掛けたその時、龍に動きがあった。俺の予感なのかは分からないが、それでも龍に教えられたのは屈辱だ。この鬱憤は目の前にぶつけさせてもらうしかないだろう。
『グォォォォォォォォ!!!!!!ォォォォォォォォ――!!!!!』
「ギャーギャーうるせぇな。閣下、部隊を下げたら、遠距離からだけで援護は可能?」
「出来なくは無いが、下手をしたら君が直撃する可能性だってあるぞ?」
「それでも構わない。部隊に損害が出るよりは遙かにマシだ」
「……」
閣下は俺の言葉に信用があるのかと問い掛けるような視線を向け、俺の事を真っ直ぐに見た。目を逸らしてはいけないと思った俺は、真っ直ぐに閣下を見ながら続けて言った。
「俺の事は駒として扱えよ、閣下。ライセンス持ちにするなら、一人ぐらい駒が居たって平気だろ?」
「しかし、だな」
「閣下。一人より皆の命を大切にしてくれ。あんたの役目は、如何に部下の損害を小さくするかだ。……これは誰にも言う必要は無いし、それを尊く必要は無い。俺は俺の意志で、そう選択しただけだ。俺は龍を殺せるなら、なんだってするぞ閣下」
そう言った俺は、閣下の事を見据えた。強く、そして鋭く。
やがて閣下は決断したかのように全軍に後退を命じ、俺だけを乗せる為の船を一隻残して下がった。それを見届けた俺は、空へと咆哮を響かせる龍を見据えて呟いた――。
「……待たせたな。さぁ殺り合おうぜ?」




