失われた物、残った物Ⅺ
「はぁあっっ!!!」
「玲奈っ、フランっ!慌てる必要は無い!」
「分かってるです!」「うん!」
――声が聞こえる。
微かに聞こえる声は、何処か懐かしいと感じてしまう。誰だ?誰の声だ?
「ウチ等の支援の長くは続かん!せやけど、勝ち急ぐんやないぞ!」
「何回言ったら分かんだ!あたいに指図すんじゃねぇよ!」
「ド阿呆が、温存せんとアカンから言うとるんや!」
「誰がアホだ、テメェも文句言う暇があんならさっさと攻撃しろっての!」
誰かが必死に戦っている声だ。一人じゃない。複数居るっていうのは分かるが、その声の主が誰なのかが分からない。でも、何故だろうか。俺は多分、この聞こえてる声の主達を知っている気がする。だが、思い出そうとしても顔は出て来なくて、名前も出て来ない。
だけど、どうしてだろうか?思い出せないにもかかわらず、声を聞いている俺の魂が……震えるのは。
◇◆◇
「――戦争だと?」
「その通りだ。来たるべき戦いへ向けた投資、貴様であればこの言葉の意味が分かるだろう?」
龍王はふざけた存在であり、我等の中で最も強者と呼ばれた存在。我ですら辿り着く事が出来なかった場所に辿り着いた強者だ。今の我が挑んだとしても、悔しいが無傷で勝てる相手ではない。満身創痍になる未来しか見えない。
しかし、その存在が戦争が起こる未来を告げたのだ。これを戯言として無視するには、あまりにも危険なのも事実だ。そんな事を考えながら、我は言葉を続ける。
「それは事実だとして、貴様がここに姿を現した理由が分からん。まさかとは思うが、我の主人が戦争を治める鍵だとでも言うつもりか?」
「フッ、そのまさかだと言ったらどうするつもりだ?」
龍王の言葉を聞いた我は目を見開いて、再び龍王の眼前に影を生成して差し向ける。先程よりも強く、具現化させた剣先を向けた。それは霧散する事なく、龍王の眼前へ向けながら告げた。
「ならば尚更、貴様をここで逃がす訳にはいかない。戦争の為とはいえ、我の主人を奪われる訳にはいかない」
「ほぉ、そこの人間を主人と申すか。随分と入れ込んでいるではないか、ウロボロスよ」
余に立ち向かう勇が貴様にあるのか、と言葉を付け足して龍王は殺気を我に向ける。ここで龍王と戦えば、深層世界に多大な被害を及ぼすのは明白。そうなれば、いくら小僧であっても無傷で済まない。魂と繋がっているこの場が荒らされれば、精神が壊れてしまう可能性だってあるのだ。
そうなれば再び戦う事も、今までのように言葉を交わす事も不可能になるだろう。それは……我にとっても、避けたい未来だ。
「『随分と、勝手な事をしてるんだな。お前等は』」
「っ!?」「……ほぉ、これは興味深い。意識を取り戻したのか?人間よ」
小僧が意識を取り戻した。その事に心の底から安堵してしまう程、我は歓喜に震えているようだった。しかし、今は身動きを取る事は不可能だろう。龍王が小僧の動きを封じているのは、ここで我との交渉を人間である小僧に介入させない為だ。
依り代である小僧が介入する事は、我も望んでいない。だが我の望みは、いとも容易く砕かれてしまったのである。安堵した瞬間、龍王は小僧の……我の主人の鎖を解いたのだ。
「っ、何のつもりだ!?龍王っ」
「貴様には関係の無い事だ。それとも、そこの人間が自由を取り戻したら困るのか?」
「貴様の余興にこの人間を利用するな!こいつは……この人間は我の物だ!」
我慢の限界を迎えた我は、離れかけていた剣先を龍王へ突き刺したのである。




