失われた物、残った物Ⅹ
壬生岬玲奈達が霧原零と戦闘を行っている間、霧原零の深層世界ではウロボロスが苛立ちを浮かべて表情を歪めていた。ウロボロスの前には、数体の影が姿を現している。その影を見据えたウロボロスは、苛立ちを露わにしたまま問い掛ける。
「――貴様等、何をしているのか理解しているのか?」
『……』
ウロボロスは問い掛けながら、自分の背後にある物を気にしながら様子を窺っていた。何故ならウロボロスの背後には、黒い鎖によって身動きが取れずに居る霧原零の姿があるからだ。先程まで意識があったにもかかわらず、捕縛されたまま動く様子も無い。生きているのか、死んでいるのかすら分からない。
そんな霧原零の様子を気にしつつも、目の前に居る影から意識を外す事が出来ない。いや、外す訳にはいかなかった。
「聞いているのかっ!貴様等に、貴様に聞いているのだ!!!答えろっ、龍王」
「聞こえている。そう騒ぐな、小童。良いのか?余の気分を害せば、そこに居る依り代の命が危ういぞ?」
「くっ……我が聞いているのはそこではない。何故、何故貴様が小僧の身体に姿を現した!ここは我等の領域だ。これは我の、我等の領域だ!!」
ウロボロスは怒りに身を任せ、影を操り龍王と呼んだ存在へ攻撃を仕掛けた。だがしかし、龍王は動く事なく背を向けたままウロボロスの放った影を霧散させた。
「っ!?」
「無駄だ。貴様程度の攻撃等、余にとっては夜風に頬を撫でられる程度だ」
「我の領域に土足で侵入しておいて、生きて帰れると思うなよ?」
「ならばどうする?そこの依り代を賭けて、余と契りの決闘でもするか?」
「っ……(契りの決闘だと?龍王が狙うのは、我ではなく小僧だというのか?)」
龍王の言葉に目を細めたウロボロスは、龍王の前に跪いている者達へ視線を送る。その者達は、今までウロボロスが霧原零を介して吸収した龍達だった。インフェルノ、フェンリル、ファムファタール、ケルベロス……しかし、全ての力を吸収した訳ではないのが影響しているのだろう。未だに姿は不完全で、龍王と同様に影の姿のままだ。
この中で唯一、姿を維持する事が出来ているのはウロボロスのみ。その理由は恐らく、依り代である霧原零がまだ生きているという事。そして、ウロボロスが霧原零と契約しているという事が主な理由だろう。
「……貴様に問う。貴様は一体、何の為にここに姿を現した。まさか、ただ遊戯に来たという訳でもあるまい。答えろ、何の用だ」
「――未来への投資、とでも言っておこう」
「投資だと?」
龍王の言葉の真意が理解出来なかったウロボロスは、訝し気な視線を龍王へ向けたまま言葉を続けた。
「詳しい話を聞かせてくれるんだろうな?わざわざ貴様が姿を現したのだ、我に無関係という訳でもあるまい。言え龍王、貴様が視る未来に……一体何があるというのだ」
睨み続けるウロボロスの問いに対して、龍王はたった一言だけ答えたのである。
「――戦争だ」




