プロローグ
「……――っ!!!!!」
声にならない叫びがその場で響き渡る。それが自分から出ているのかさえ分からない程、その場全体に不協和音として響き渡っている事だろう。だがそんな事を気にする余裕は無く、少年はただ一人で叫び続けた。
怒号にも似た咆哮を響かせ、目の前にギラリと光る双眸を見据える。剥き出しになっている無数の牙を向けられた瞬間、自分がもう死ぬのではないかと思ってしまう程の恐怖感が身体全体に走る。
だがその恐怖を感じながらも、近くに落ちている鉄棒を構えて言った。
「――俺はお前たちが嫌いだ!!全部、全部殺してやる!!何処までも追い続けて、俺が絶対に殺してやるっっっ!!!」
涙を流しながら恐怖と戦い、ギラリと鋭く輝く双眸と視線を交わす。だが次の瞬間、足場が崩れて行ってしまう。視界の全てが闇へと染まり、やがて周囲は何も見えなくなってしまう。だがその中で、自分が何処に居て、何をするべきなのかが頭の中で理解出来たようだ。
『……貴様ハ、何ヲ欲スル?』
「ちから……。あいつを倒せるだけの力が欲しいっ」
『其ノ力ノ為ニ、貴様ハ何ヲ差シ出ス?』
「俺の全部!!全部をくれてやるっ!!何もかもっ、だからっ……さっさと力を寄越せっっ!!!!」
『良カロウ。ナラバ貴様ノ願イ叶エテヤロウ』
短く交わされた言葉。だがその後、その力を得た存在は『化物』として人類から逸脱する事になる。当時、十歳。物心が付き始めた少年は、過酷な未来への道を進む事になる。その少年、名は霧原零。
彼は望み、そして願うのだった。
――全ての龍を滅ぼす。
これが彼――霧原零の物語の始まりであり、そして人間というカテゴリからの逸脱の始まりなのであった。