9節 二度あることは三度ある、と申しますし
日本人のキャラ二人目です!!
朝にどれだけぶっ飛んだことがあろうと、登校してしまえば恙無く、それこそ朝にあったことなど嘘のように、いつも通り眠気と戦いながら授業を受け、いつも通りоблакとкерберが染野の教室まで来て3人で食事を摂って。
「桜井染野ちゃん、いる?」
よく通るアルトの声が、教室に響いた。それは喧騒を簡単に貫いて、3人の元へ届く。
染野はゆっくりそちらを見る。前言撤回。今日は「いつも通り」の日だなど到底言えない。同じクラスの少女達の、色めいた囁きが聞こえる。
黒い、パーマを当てて肩に触れないように揃えた髪、決して長身ではないけれど、スレンダーな体つきに、凛と伸ばした背筋で、実際の身長よりも背が高く見える。勝気なつり目と、目元の泣きぼくろが色っぽい、総じて「大人っぽいかっこいい女性」。
「麻祇先輩……」
「あ、いたいた、染野ちゃん、ちょっといいかな?急ぎじゃあないんだけど。」
麻祇紗舞はキツめの顔の満面に人懐っこい笑顔を浮かべて染野を手招きする。
そこら辺の男子よりも遥かに女子に人気のある彼女に逆らう度胸など染野には無い。スクールカーストという観点で、染野もそれなりに高いが、紗舞はその上を行くのだ。
「麻祇先輩、あの。染野は俺らの方で先約が……」
「そうだったのかい?なら出直すけれど。どうかな、染野ちゃん。」
облакの反論に紗舞は笑顔ひとつで返し、染野に水をむける。部外者は口を開くな、と威圧的な笑みである。この2人、仲がいいのかもしれない。
「いえ、麻祇先輩のご都合もあるでしょうし、大丈夫です。」
ぶっ飛んだことは一日で完結させたい、切実に染野はそう思うのだ。
「じゃ、ちょっとおしゃべりしよう。」
染野は紗舞に伴われ、屋上に向かう階段に連れてこられた。
「あの、屋上は入れませんよね?」
「うん。内緒話がしたいだけだからね。人さえ来なければそれでいいんだよ。それより昼休みは有限だ、ご飯を食べながら話そうよ。」
そう言って紗舞はランチバスケットを開ける。良かったら一緒にどうぞ、と笑って整然とベーグルの並んだそれを示す。
「それで、なんのご用でしょうか……」
「うん。一昨日の夜のことなんだけど。」
染野は、持参したパンを落としかけた、一昨日の、夜?
「本当に助かったよ、あのままじゃあ私、脱落するところだった。……その、痛かっただろう?私はговорникに回収されたけど、大丈夫だったかい?」
助かった、脱落、耳慣れない異国の名前。痛かった、だろう?
「あの、その、もしかしますけれど、麻祇先輩……」
必死で思い出す一昨日の夜の記憶。火柱や火球で戦い、踏みつけられていた魔法少女の姿は、どんなだっただろうか。
「あぁ、えっと、巫女、らしいよ。いや、魔法少女だっけ?говорникのやつ、言い回しを気分で変えるから正式なのはどっちかはわからないんだけど。」
紗舞は、少し首を傾げて染野を覗き込む。
「とにかく本当に助かったよ。少し込み入った事情があってね、まだあのバイトを辞める訳にはいかないんだ。」
猫のように細めた瞳は、紫水晶のように神秘的に澄んでいて、それは、先程までの人懐っこい風情の死んだ、まるで、それこそ。
「だからそのお礼に、私は君になにか恩返しをしたいんだ。なんでも頼っておくれ……その、大したことは出来ないかもしれないけれど。」
初めて見た時の、зимаにとてもよく似ていた。
そして、「いつも通りじゃないこと」というのは繰り返す。облакもкерберも、同居人の用事とやらで、先に帰ってしまった。今朝のこともあり、一人で帰るのは気が進まない。いっそ早速紗舞を頼ろうとも思ったが、彼女は忙しい人で、捕まえることすら出来なかった。
「あの」
「ひっ」
「あっ……申し訳ありません」
朝、зимаに捕まったその道で、男に声をかけられた。朝の記憶が尾を引いて、思わず小さな悲鳴をあげて振り向いてしまった。
美しい青年が、申し訳なさそうな顔で染野を見ていた。
「いえ、驚いてしまっただけで……えっと、なんですか?」
「申し訳ありません、その、ここら辺で1番大きいドラッグストアってどこですか……?」
青年は、柔らかい癖の着いた髪を肩に触れさせてたわませながら首を傾げる。日本人にしては大柄だが、顔の造形も声色も何もかも柔らかい上、染野の周囲の異国人と比べればいくらか華奢なせいで、どうにも小柄な印象を持ってしまう。
「ああ、ドラッグストアなら……えーと。あ、もし良ければそこまでご案内しますよ。」
「え、それは助かりますが……」
「道説明するの、得意じゃないので……それにその、ちょうど化粧水とか補充しようと思ってたので。」
ちょうど昼に見た、紗舞の真似をして、染野は人懐っこい笑顔を浮かべた。
びけいらんぶ