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6節 温かい既視感を感じたのです。

お久しぶりです。2ヶ月の更新、облакさんの、回です

 数日が、何事もなく経過した。そう、何事もなく。главни(グラヴニー)とウリエルの争いに怯えた、精霊ともつかぬ下級の存在に配慮してこの数日において争いは起こしていない。

 何より誰も、адмирал(アドミラール)を刺激することも桜井染野に負担をかけることも望まなかったことが大きいだろう。

 けれどそれでも、その数日はоблак(オブラーク)にとっては目まぐるしいものであった。

 例えば、戯れの学校生活において、染野がоблакに構われたがることが増えた。真ん丸の瞳を向けて、まるで捨てられるのに怯えるように笑って纏わってくる。本来ならもう一人、それを受け止めるはずのкербер(ケルベル)елизавета(エリザヴェータ)を構うので忙しいらしい。

 керберが自分や染野以外にばかり構うことがわずか、腹立たしい半面。人の世話を楽しそうに焼く彼の成長は微笑ましい。

 ただそれが、今でなくても良いだろうと思う。どうにも染野が不安定らしい今でなくとも。

 керберとелизаветаのあいだに因縁があるにしても、кербер(ケルベル)が染野の異常に気づかないのはやや異様であるが。

 仮に気づいた上でелизаветаを優先しているなら、姉のように慕う染野よりも優先することが既に以上である。

 家に帰れば帰るで、母が少しぴりぴりしているし、главни(グラヴニー)は伴侶と再会した一件以来、機嫌が良すぎてかえって不安になるし、зима(ズィーマ)は常に何がしか考えている様子で空恐ろしい。それでも、大きなことは何も無いまま、日常は進行していく。




 ひら、と、黒い袖が閃いた。

 喪服のように真っ黒なコートを翻して、子供のようにくるくると、はしゃいでいるようにも、踊っているようにも見える少女が1人。

 公園の、円形に花壇が配置されたタイルの上で動き回っていた。

 ひらひら、ひらひら、不自然に途切れた腕の先の袖が忙しなく動き回る。кербер(ケルベル)執心の少女、елизавета(エリザヴェータ)は踊っていた。


 「елизавета。」


 облак(オブラーク)が声をかけるとぴた、と彼女は静止する。赤い瞳がоблакを捉える。

 ぐらりと、不安定な体は傾いたのを、咄嗟に受け止めた。腕の欠損ゆえか、見た目の印象の割に、不自然に軽い体だった。


 「ごめ、ん、なさい?облак、さん」


 たどたどしい、ロシアの訛りの強い日本語。


 「気にすんな。それより……1人なのか?」


 珍しい、という意図を込めて問いかけた。片腕の欠損、それに、片目もほとんど見えず、片耳も聞こえない彼女は、致命的ではないまでも基本的には介助があるに越したことはないし、кербер曰く、邪魔くさいほどに過保護にされていると聞いた。

 いくら休日、天気の良い昼とは言えど珍しいのではないか。


 「еноx、忙しくて、Иваннаも、……」


 「ああ、今日は説教の日か。」


 今頃その過保護の保護者らは教会で聖書を紐解いているのだろう。日本語で語られるそれはелизаветаにはまだ難しかろうし、邪魔になってしまうのは容易に想像が着いた。облак(オブラーク)を引きずり下ろした神を賛美する物語を、それはもう真理のように聞かせているのだと思うと、歯ぎしりくらいは許されたい、が、子供の前でそれは許さない。

 黒い髪の隙間から見える赤い瞳が、怯えたように揺れている。億劫とは思えど、幼く無力な存在をあえて虐待する趣味のないоблакは極力、安心させるための笑みを浮かべた。


 「お前に怒ったわけじゃない。」


 できるだけ優しく体制を立て直させながら言い含めても、少し強ばる肩は治らない。なんとなくその様子には覚えがある。他人の怒りに敏感な子供のそれ。怒りそのものに脅えて、それが自分に向いていなくても涙を溜める子供のそれ。


 「あ、あー、кербер(ケルベル)呼ぶか?1人で時間潰してても危ないだろ。」


 「でも、керберに、めいわくかかるませんか?」


 「かかりませんか、だな、惜しい。まぁ予定はなかったと思うし、お前関係なら迷惑だとも思わねぇよ、多分。」


 僅かに、керберの名前を出した時に赤い目が輝いたのをоблакは見逃さなかった。それに、なんだか気が抜ける、керберがелизаветаを構うのが正直気に食わなかったが、елизаветаの方がここまでкерберに頼っているとなると、兄役として単純に嬉しい。

 そう思うとこの少女が妙に可愛いものに感じられて、つい、керберを呼び付けて待つ間にココアまで買い与えて、керберにоблакが変な甘やかし方をするなと怒られたのはさすがに腑に落ちなかったが。

 じゃ、と2人から離れてからふと振り返ると、兄妹のように戯れる、というか、керберを振り回すелизаветаがいた。


 それが、随分懐かしい記憶と重なる。


 空が青い、それを、あいつは見ることが出来ないのだろう。


 お兄ちゃんはそれなりに頑張っているよ。

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