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3節 人を憎むわけではございませんので

今回はグロいです、ご注意ください

後、これを書いている人間は蛇の飼育に関する知識があまり有りません。

 そろそろ脱皮が始まってもおかしくない時期だが、サンビームは空腹の様子を見せている、注意深く観察したが、脱皮の兆しそのものはないため、餌を与えることにした。

 маршал(マルシャール)は、先程の契約書を提出しに行くそうだ。すぐ戻る、とも言っていた。


 電気ケトルから湯気が出るのを、染野はぼんやり眺めていた。カチッと音を立ててお湯が沸けたことを伝えるケトルを手に取って、一度、大きめの容器に注いで冷ます、器を触れた感覚で、だいたいこれくらい、となったら冷凍したラットを入れた容器に注ぐ。またお湯を入れ替えることを考慮してケトルの中のお湯をまだ器に入れて覚ましておいて、ケトルには水を継ぎ足して、沸かし直しておく。

 しばらく待つと、ラットを入れた容器の方のお湯が冷め始める、ラットをつついて、まだ内側が凍っている感触がしたので、お湯を捨てて適温に冷ましておいたお湯に入れ替える。完全に凍っている感触がなくなるまで、3度ほど繰り返した気がする。芯の感触のなくなったラットをキッチンペーパーで丁寧に拭き取り、改めて、牙を貫通させないためのグローブを装着してからサンビームヘビの水槽の蓋を開ける。ラットの尻尾を持ってゆらゆら揺らすと、サンビームはそれをじっと見つめる。しばらく横に揺らしたり縦に揺らしたりしていると、本当に突然、サンビームはラットに噛み付いて染野の手からそれを引ったくり、ぎちちち、と締め上げる。


 「あっ」


 にゅる、と勢いよく締め上げられた白いラットの腹から出てきたのは赤黒い内臓だった。1度冷凍し、解凍したことでラットの腹部が脆くなっていたのかもしれない。いわゆる稀によくある事故だ。白いラットの毛や、極彩色に輝くサンビームの鱗、そして水苔に血がしみていく。解凍する時のお湯の温度が高かったのかもしれない。

 サンビームは染野の困り顔など気にも留めない、嬉しそうにラットを頭からかぷり、と咥えこんでゆっくり飲み込んでいく。そのさまがあまりにも可愛らしく、常に外に晒される呼吸孔がひくひく動いてるのがとても可愛くて、染野は、あとに待っている面倒事を忘れてその様に見入った。


 染野は生物全般、食事をしているのを見るのが好きだ。自分の寝食を忘れて観賞してしまうほどに。そして、大抵の人間はその続きを聞くと気持ち悪いと言うが、染野は同じくらい生き物の排泄も喜んで観賞する。

 別に倒錯的な趣味が彼女にある訳では無い。ごく自然に、彼女にとって生物の食事と排泄はワンセットなのだ。


 サンビームがラットを尻尾まで飲み込むのを確認すると、染野はうっとりと息をつく。数いる生き物の中でも、ペットショップで目が会った瞬間一目惚れしたこのサンビームは特別だ。それまで動物を観賞するのが趣味であった染野に、「飼育」という新しい趣味を与えてくれた存在である。


 サンビームが自分の住処に戻り、動かなくなるのを見て、とりあえず、血で汚れた水苔だけでも取り替えるべく、乾燥した水苔を取り出す。先程使ったお湯のあまりと水を混ぜて、常温よりやや暖かい水で水苔を戻す。いっそ中身を全部掃除しようかとも悩んだが、食後の彼をあまり刺激しようとは思わない。


 水苔を汚れている部分よりやや広い範囲捨てる。そして血を綺麗に拭ってから、戻した水苔を入れる。とりあえずの応急手当だが、しないよりは遥かにマシのはずだ。


 いつの間にかとっぷり日が暮れている、真っ暗な窓に染野の顔が写った。


 その顔を、こつこつ、と叩くものがあった。顔を叩く、と言うより窓のちょうど染野の顔の写った部分を、雀が叩いていた。

 こんな時間に、雀?


 「早速か、お前、さては運が悪いな?」


 「え?」


 とすっ、と頭に落ちてくる柔らかい塊。それと一緒に落ちてくるバリトンボイス。маршал(マルシャール)が戻ってきたらしい、窓にはきっちり、掌に乗るくらいのお手玉が写っている。その2人を見て、窓の向こうの雀は首をかしげた。


 「行くぞ。」


 「え、いやどこに。」


 「俺の代理で戦うという契約だ。」


 お手玉は染野の頭から飛び降りると、落下しながらまた、翼の生えた青年に姿を変えた。そして、青年は窓を開け、染野の腰に手をかける。


 「えっ。ちょ、何を……っ!?」


 「だまれ、舌を噛む。……にしてもお前軽いな、食事を抜くくせでもあるのか?」


 「は!?……っ、うるさ……」


 「黙れ。」


 маршалは染野の体を軽々抱えると、そのまま広い窓から染野を抱えたままばさ、と飛び立った、大きな猛禽の羽ばたきが染野の耳朶を打つ。

 人の体をつけた巨大な猛禽が部屋から飛び立つのを確認して、小さな雀は先導するように羽ばたく。

 空中を2羽の猛禽が滑る様を眼下の人々は気に止める様子がない。


 「ちょっとした魔法だ、下からは見えない、と言うより意識できないようになっている。」


 маршалは染野の耳元で静かに疑念に回答する、いや、絶対最初に答えるべきはそこではないと思う。

 染野の抗議の眼差しに気づいてか、にや、とмаршалは口の端を釣り上げる。


 「まず、あの雀は宣戦布告の使者だ。極めて下級の、ほとんど精霊と呼ばれる類の神だな。読んだとは思うが、我々とあちらの間には、極力ヒトや大地を傷つけないための盟約がなされている。たいていの場合はああして、あちら側が争いの場を用意して使者を飛ばしてくる。」


 雀は、ある地点に辿り着くと姿をくらました。高いとは言い難い山の中腹にある広場。小学校の時に、染野も天体観察なんかに使った記憶がある。舗装はされていないが、木の生えていない広場。サッカーなんかもしたし、男の子が蛇やトカゲを捕まえて遊んでいた記憶があるし、マムシが出た、と言って1時は立ち入り禁止になっていたこともあった気がする。

 маршал(マルシャール)はそこを見ることができる小学校の屋上に降りた、見ることは出来るが、近くはない。



動物がご飯食べてるシーンって、なんであんなに可愛いんでしょうか。

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