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10節 純粋な神性とは、それほどに理不尽なものでございます。

男臭い(´・ω・`)


 「いだ!痛い!マジで痛い!!腹はもうやめたって!!痛い!!」


 зима(ズィーマ)の腹を、僅かに紫がかった白い毛並みの大きな犬が、ぎり、ぎり、と噛み付いて痛めつけていた。耐えかねて、カーペットに倒れ込むзимаに追い打ちとばかりに吻を左右に振る。その場にいるのは他に、くすんだ、酷く暗い青い髪の青年1人、その青年はその光景を、まるで無関心の様子で、とりあえず視線だけ向けてます、とばかりに見ている。


 「облак(オブラーク)!こいつ止めて!!見てばっかおらんで!!」


 ぎり、ぎり、と執拗に牙を食い込ませようとする獣を必死におしのけながらзимаが叫べど、облакは冷ややかにそれを見ているだけである。


 「クソ犬!朝も邪魔するしなんやねん!!」


 「何だ、ってこっちのセリフだよクソ蛇。」


 облакが、聞くものを威圧する地を這う様な、怒気を孕んだ低い声でзимаに答える。その声に反応するようにばち、と小さな雷が彼の周囲で発生する。


 「俺らの日常に関与すんなつったよな?」


 「いぎっ!!」


 ばち、とзима(ズィーマ)の手の甲に落とされる小規模に凝縮された雷は、即座に彼の右手を炭化させる。その熱量こそ、彼の怒りを表している。その上、その炭化した手を踏み潰した。


 「お前らには関係ないやろ!」


 「むしろ当事者だわボケ、桜井染野は俺らの身内だ、って一昨日に言ったばっかだよな?」


 зимаがそれに言及した瞬間、ついで、左の肩にまた小規模に凝縮した落雷が落ちる。それは、зимаの腕をそのまままるごと炭化させた。


 「俺の日常を侵食するのは許さない。この程度で済ませてんのは俺がその忠告を怠った責任があるからだ。」


 牙の食い込む腹部が大きく動くように、облакはзимаの体を思い切り蹴り飛ばした、また、蛇は呻く。いくらзима(ズィーマ)だとて、облакの機嫌を損ね続けようとは思えない。

 彼はかつて、ゼウスと呼ばれた。

 彼はかつて、インドラと呼ばれた。

 彼はかつて、バアルと呼ばれた。

 彼はかつて、トールと呼ばれ

 彼はかつて、ユピテルと呼ばれた。

 彼は恵みであり、彼は神罰である。最も由緒正しきものの1柱。時に天帝とさえなりうる権能である。如何に知性と不死を権能に持つзимаだとて、およそ、正面から勝てる相手ではないし、戦争の矢面に立たせることすら本来は許されないほどの、純粋な力の所有者。その男が。


 「桜井染野に手を出すな。」


 と言うのだ、彼が言うのだから、はい、と答えるべきなのだ。


 「断る。」


 それなのに、зимаの口をついて出たのは拒否だった。はい、と答えるために開いた口は、隠れればいい、などと考えた頭はそれでも拒否を示した。

 ふわふわした、不思議な色の髪、花吹雪の散る瞳、軽い体。白い肌。

 桜井染野を思い浮かべただけで、道理が吹き飛ぶ。


 「そうか、じゃあ、1度死ね。」


 облак(オブラーク)の怒りを感じとった白い犬が、す、とзимаから離れた。熱量が、зимаの頭上に集まる。


 「はぁい、そこまでー」


 ぱん、ぱん、と手を叩きながら、ふわふわと柔らかい癖を描く髪の、色素も何もかもが柔らかい男が、やはりふわふわした微笑を浮かべて現れる。

 その片手にはドラッグストアの袋があった。そう言えば、зима(ズィーマ)の傷の手当のために買ってくるとか言って出ていったような。


 「адмирал(アドミラール)、止めんな」


 「いや、止めますよ。何言ってるんですか、仲間割れはいけませんよ……って、貴方達とつるんで初めて言いましたけど。染野ちゃん、そんなつもりは無いでしょうけどとんだファム・ファタールですねぇ」


 いっそ場違いにふわふわ笑いながら的確に2人まとめて挑発するのはいっそ見事としか言い様がない。白い犬が、不思議そうにадмиралの匂いを嗅いだ。いつもの癖で、それにзимаもならう。


 「桜染ちゃんのにおい!おまえ、あの子に何したん!?」


 「何もしてませんー、ドラッグストアまでの道案内してもらったので、そのお礼にお茶してついでにLINE交換しただけですー。」


 もう!と成人男性がやっても可愛くない仕草で露骨に拗ねるадмиралだが、зимаにはそれ以上に、彼の言った内容が気にかかった。


 「お前今なんつった!?LINE交換!?手ぇ早すぎひん!?」


 「こっちに越したばっかりでお友達が欲しいんです、とか言ったらあっさり応じてくれましたよ、いや、見目だけじゃなく心も綺麗なお嬢さんで。」


 адмиралが話すのを、とりあえずは大人しく聞いていたоблакは、先程までの怒りなど、存在すらしなかったかのように不思議そうな顔でадмиралを見た。


 「адмирал(アドミラール)、もしかしてお前、機嫌悪い?」


 「そんなことは無いですよ?」


 адмиралはわざとらしい幼さでえぇ、と声を上げる。しかしそも、彼はここまで饒舌ではなかったはずだ。白い犬は、不安げに鼻先をадмиралに擦り付けた。


 「まさか、天界のやつに見つかったか?」


 「そうだったらもう死んでますよね?おちついてください。」


 адмиралは観念したように、肩を竦めてため息をついた。


 「昔馴染みを見つけただけです、会ってはいませんがね。」

女の子の出番、増やしたいですね。

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