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なろう作家御用達「ハーレム作品」とはなんぞや?

 そもそも「ハーレム」とは何か?


 元々はとある宗教観から生まれたもので、簡単に言うと『男女はいたずらに近づいてはいけないよー。特に女は貞操を守ろうねー。男は自分の女を守ろうねー』という概念から、夫が妻を隔離保護した空間を作りました。これがハーレムの由来です。


 つまり、昨今における魅力的な異性を複数人侍らしてしゃーわせー! というイメージからはかなりかけ離れたものでした。

 ここにハーレムとはもともと別にあった一夫多妻制が結びついた結果、『一人の夫が複数の妻を囲い保護している空間』=ハーレムという図式になり、それが様々な形で伝聞した結果、男が複数の女性を相手に肉欲に溺れるという意味を持つようになってしまいました。

 

 生物学的には、一匹のオスに対して複数のメスがほぼ同時期に生殖活動を行う事を指します。

 そういった状態や行為の是非は一先ず置いておくとして、その特徴は特定の雄性個体の遺伝子が多く残されることです。

 これの利点はその環境下において優秀な能力を持つ個体情報を次代へと多く残し殖やせる事、群れを形成する種においては自らと近似した遺伝子を持った次代が楔となって、別個体同士の協力関係が多数発生させられる事です。


 簡単に言えば“血は水よりも濃い。数こそ力。力こそ正義。”という事です。


 欠点としては同じような能力を持った個体ばかりが増えるので、環境が激変すると適応できずその種全体の存続が難しくなる事。


 いわゆる遺伝的多様性という、生物学を少しかじった事がある人なら聞いたことがあるはずの要素ですね。


 生物学的には一夫多妻・ハーレムは利害関係から起因する要素が強く、人間の場合は権力者が自らの利権を守るために実力者と血縁を結ぼうとした結果発生したものが殆どです。


 つまり、厳密に定義すると現実においては


 ・基本的には政略目的。

 ・お互いの恋愛感情などは二の次。

 ・実力者である男性優位。

 ・しかし、夫となる者には妻達に対してはきちんと保護し養う義務があり、それを実行できる力が必要。


 これらの条件を満たさないと人間のハーレムとは呼べないのではないでしょうか。




 一方、昨今のフィクションにおいて氾濫しているハーレムは、ラブコメの主人公、あるいはなろうにおける多くのファンタジー系転生転移をした主人公(男女問わない)一人に、複数の異性から想いを寄せられている状態の作品を指す事が多いです。

 おそらくですが「ハーレム」というカテゴリを目当てに作品を求める読者が持つイメージにも合致しているはずです。


 これは人なら誰もが持つであろう承認欲求を満たす状況を描きやすく、また疑似体験しやすいというのが、ハーレム要素を書く作者が、そしてハーレム要素を求める読者が常に一定数存在する理由だと考えられます。


 すなわち、


 ・セクシャル的に優秀な異性から

 ・アビリティスペック的に優秀な異性から

 ・複数の人から同時に


 認められ、求められ、賛美され、尽くされる。


 上記の要素が揃ってさえいれば、最終的に主人公が一人を選ぶのか複数人同時と関係を結ぶのか(あるいは未完で結末が書かれていなくても)いずれの結末にせよ一緒くたにハーレムと定義されているフィクションが非常に多いです。


 つまり、利害関係や義務的な事より、互いの好悪状態、恋愛感情があるか否かが重視されている事が多いのがフィクションにおけるハーレムと言えるでしょう。

 ※勿論、そうでない作品もありますし、両方の要素がきちんと描写されている事もあります。


 生物学的には成立する事が稀な男女が逆、つまり、『逆ハーレム』状態が成立する女性主体の作品が散見されるのも、恋愛感情の動きが重視されるフィクションならではだと言えると思います。


 一方で、フィクションハーレム(恋愛至上主義)の難点と言えるのが、主人公の愛情量の差配描写です。 


 現実的に考えれば複数の異性にパートナーとしての愛情を平等に向けるのは極めて困難であり、一般的な読者の感性では非常に想像しづらいのです。

 かと言って素直に愛情量を偏らせた描写を行ってしまうと、途端に主人公はクズに成り下がります。特定の異性キャラだけを優遇するくらいなら最初からハーレム要素など加えない方が良いのです。


 よしんばその方法が思いついたとしても、それをハーレムメンバー側が満足するのか、承認欲求を満たせるかどうかはまた別問題であり、それを例えば「私達(ハーレムメンバー同士)は認め合ってるから良いの」と安易に発言させれば途端にチープで薄っぺらいキャラクターになりかねません。


 この様に、元々主人公(作者・読者)の独りよがりな承認欲求を満たすためだけに作られたハーレムは、それに属するキャラクターの立場をないがしろにしやすい為、手が抜けません。


 この点ハーレム作品にありがちな優柔不断・難聴・鈍感等の属性を持った、異性に対する態度がハッキリしない主人公は、ハーレム作品に対して高い適正持ちであると言えます。


 何故なら異性全員に対して終始酷い扱いをするので、ある意味全員に平等だからです。


 そして一方的にハーレムメンバーから評価や承認を貪っても「元々こういう奴だからしょうがない。一方的に想っている、惚れた自分の負け」理論がまかり通ってしまいますし、その時々におけるハーレムメンバーからの刹那的な報復で許されてしまっても違和感がありません。(これ最初に思いついた人スゲエ)


 よって、ハーレム作品の主人公は似たような属性持ちである事が多く、食傷気味のテンプレ作品が氾濫する事の一因となっていると言えるでしょう。




 前述したように、ハーレムという要素を持ったフィクション作品は人気が出やすく売れやすいものが多いのですが、一方でハーレム要素に対して忌避感や嫌悪感を持つ方も常に一定数存在すると見受けられるのもまた事実です。


 倫理観やフェミニズム的思考からくる拒絶、安易に増える主人公のヨイショ役を行うハーレムキャラの底の浅さ等々……否定的な意見は数多く、様々なものがあります。


 しかし、最もシンプルな理由としては前述した承認欲求を疑似的に満たす、という武器そのものが魅力的ではない、ヒットしていないからなのでは? と考えるのが自然だと思われます。


 つまるところ、フィクションで疑似的に体験しなくても現実で承認欲求が満たされている者、あるいは他者からの評価や承認に魅力を感じていない者、こういう人達にはウケなくて当然なのではないでしょうか。


 そう考えると、ハーレム物が多数流行り生まれ続けている状態は、中々に闇が深い現代日本社会が表れている気が……これ以上の脱線は色々危険そうなのでやめておきましょう。




 とにもかくにも、完璧な人間なんて存在しませんし、悲しい事に人間は全員が全員他者から認められたり求められたりする人ばかりではありません。


 一部の人が比較論で評価されれば、評価されなかった人はその倍以上はいるでしょう。


 そういう方たちがいる限り、これからもハーレム作品は陳腐だと言われても常に一定の人気を獲得し続けるはずなので、ハーレムが好きな作者は安心してその需要を満たし続けて、読者も安心して供給を待てば良いでしょう。


 そして自分が苦心して書いた作品が評価されない、認められないと悩む方は、試しにハーレムに手を出してみるのも一つの策だと、個人的には考えられます。


 認められないからと悩む人にこそマッチする要素だと言えますし、きちんと考えられた内容なら食傷気味でもよほどの事が無ければハーレム好きにはウケる事でしょう。


 逆に言えば、つまんない話はハーレムだろうが異世界転生・転移だろうがどれだけ流行要素を突っ込んでも、それに見合った評価しか受けられないでしょう。




 結局の所フィクション作品のハーレムという単語は、その作品を表す記号の一種でしかなく、ハーレム作品と言っても面白い人のお話は面白いし、つまんない人のはつまらない。色眼鏡で見る事なくとりあえず一度は読んでみたり、書いてみたりするのも一興かなと思いました。




追記:今回の続き的な何かを投稿しました<a href="https://ncode.syosetu.com/n0712fc/">「ハーレムとはなんぞや?」蛇足編「ハーレムの嫌悪感とはなんぞや?」</a>

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― 新着の感想 ―
[一言] 承認欲求はありますが、いくつか前置きが乗るタイプなので、なろうのチーレムは苦手な事が多いですね 私の前提は 1、承認の前提は正確な理解(明らかに馬鹿なのでは?的な商人だと馬鹿にされてる気し…
[良い点] 承認欲求を満たす状況を描きやすく、また疑似体験しやすい >ここに非常に強く同意しました なろうのハーレム物は恋愛というより「凄いね、さすがだね。こんなことあなたにしか出来ない」という賞賛を…
[良い点] 「ハーレム」の元々の意味から、なろうでの「ハーレム」のイメージまで順を追って書いているのが良かったです。 >色眼鏡で見る事なくとりあえず一度は読んでみたり、書いてみたりするのも一興かなと…
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