一話目
昨晩俺は袈裟斬りに遭った。
俺の事を妬むストーカー男の利己的な犯行。
どうやらそいつは機械オンチのようだ。
「我こそがおちんちん侍!」そんな事を叫びながら研ぎ澄まされた刀を掲げる奴の姿を俺は一生忘れられないだろう。
しかし最近の医療の発達はめざましいものだ。
ウサギみたいな顔をした外科医によって俺の命は救われた。
この事件の事は誰にも言わないでおこう、たとえ俺の唯一の家族である義理の母親であっても。
今は亡き父は槍投げの名手で、彼はその才能に嫉妬した人間に襲われ死んだ。
また母は名高い芸子だったのだがそれ故に客が集まり、マナーの悪い客のセクハラのせいで自殺に追い込まれた。
国立競技場で活躍した父、芸子として世界的に有名だった母、どちらも俺にとってはかけがいの無い大切な両親だった。
改めて思い出すとやはり嘘つきな俺とは釣り合わない人達だ。
今、俺を引き取って育ててくれている義理の母親だって勿論嫌いでは無い、彼女もまた尊敬出来る人物だ。
「大将、イカ1貫!」
「はいよ!イカ一貫とカレーライス一つだね!」
大将の威勢のいい声の後に出されたのは透明なイカとスライム状のカレー。
「こいつはかのムー大陸でも愛されたという伝統のレシピなんだ!さあ!ぐぐいっと食っちまいな!」
んなわけあるか...まあ、クシナダだとかインドラだとかいう神話の世界じゃないだけマシだな。
大根役者にも程がある大将を横目にカレーを頬張る。うん、不味い。
シャイガイな俺は本音も嘘も言えず、ただ食べた。
「ねぇ、アンタ。別に不味いって言っても良いんだよ?なにもこの馬鹿に付き合わなくたっても…」
大将さんの妹さんが心配そうな顔で俺を見る。
「えっ、あっ、そんなことないですよ!美味しいです!」彼女を見た瞬間ときめきを感じ、言葉を失った。
「はっはっはっ!そうだろうそうだろう!」キセルを左手に持った大将──タバコは入ってないためキセルを弄るのが癖なのだろう──が嬉しげに笑う。
「兄貴ったら...ねえ君、この店に大将のご機嫌とりなんてルールは無いからね?」
「あらぁ?なに?アナタひょっとして大将ちゃんの激まずカレー食べちゃったの?可哀想に。口直しにこれあげるわ」
通りすがりのオカマがルマンドを渡してきた。
気持ちはありがたいが生憎俺は甘味がどうも苦手だ...都々逸師匠に差し入れとして渡そう。
「全く、大将ちゃんもあんまりお客さまに負担かけちゃダ・メ・よ」
「はっはっは───!?!?」
オネェがふざけたようにかましたツッパリによって笑っていた大将が吹き飛んでいく、何者だこのサイクロプス。
「あ...目の前にリャナンシーが...」大丈夫か大将。
サイバイマンの自爆に巻き込まれたヤムチャみたいになっている大将を見ていると、その視界の端にチラリと映るものがあった。
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まだまともですね。